この写真はバスの最前列の座席である。前輪の上になるからかなり高い位置にある。これは 「低床バス(ノンステップバス)」 と呼ばれている床の低い車両だから特に高低差が大きい。床から50cm以上はあるようだ。
低床バスは、お年寄りなど脚の弱い人でも乗り降りがしやすい、いわゆるバリアフリーのバスとして最近増えてきたが、僕が利用している京阪バスは特に積極的で、全車両の半分近くが低床バスになっている。高齢化が進む中で歓迎すべきことだ。
ところが、この座席だけは問題だ。元気な者には別段どうということはないし、むしろ見晴らしが良くていい座席なのだが、年寄りにとっては非常に危険な場所である。そしてどういうわけか、年寄り、特にお婆さんがここに座りたがるのである。平地でも危なっかしい弱った短い脚でこの座席へよじ登ろうとするのだから、見ている方がハラハラする。特に下りるときが危険である。大体お婆さんが利用するのは閑散時だから、ほかにいくらでも座席があいているのである。
僕は一度、登ろうとしてなかなか登りきれないお婆さんに注意してあげたことがある。《そこは危ないからやめはったらどうですか、ここのあいた席に座らはったら?》 と。幸いそのお婆さんは素直な人だったから気持ちよく僕の言うことを聞いてくれたが、頑固でひねくれた性格の人だったら睨まれていたかもしれない。
なぜお婆さんがこの席に座りたがるのかは、彼女らから見るとまだ若い男の僕には解らない。ただ想像出来ることは、「歳をとると子供に還る」 ということである。幼児は必ずこの席に座りたがるし知的障害者の人も大体そうである。人間、歳とともに判断力は落ちてくるし、楽しみの幅も狭くなるから当然かもしれないが、しかしこの件に関してなぜ男女差があるのかは僕には解らない。心理学者の方に聞いてみたいものだ。
ちなみに、京阪バスにはここに座席をつくってないバスが何台かある。座席数は少なくなるが、安全を考えるとその方が望ましいと言えるだろう。