アルゼンチンとウルグアイとの国境の川にダムを作り発電を行うというプロジェクトであった。カブキの任務は昇圧変圧器と付帯消火設備の据え付けが正しく行われ運転に供して良いことを確認し引き渡しを行うことであった。 https://www.google.co.jp/maps/place/%E3%82%A2%E3%83…3305?hl=ja サポートしてくれる作業員2名が居て、カブキはインヘニエーロ(Ingeniero 技師)、二人組のうち上位の者はヘフェ(Jefe 親方)もう一人はアジュダンテ(Ayudante 助手)である。 ヘフェはアジュダンテを「マルテス」と呼んでたのでカブキも「セニョール・マルテス」と呼び掛けていた。ヘフェのほうも名で呼んでいたがマルテスがいつもヘフェと呼ぶので、発音しにくかった名をやめてカブキもヘフェと役職だけで呼ぶことにした。 あるときヘフェに計測器を借り出しに行かせた留守にマルテスに「〇〇をここへ持ってきて」と言ったところ「シ!インヘニエーロ」と言って去ったきり戻ってこない。 やがてヘフェがマルテスと一緒に戻ってきて「マルテスには決して直接指示はしないでくれ」と言われ「ぺルドン(命令系統を乱しちゃったか)」と思って済ませたが、実はもっと深いわけがあった。 休憩時間にヘフェがマルテスを指さして「彼は本当にひどい目に遭って土木現場から命からがら逃げて来たんだ。土木の現場では”No"なんて言うとむちでブッ叩かれてたんだよ。ほかにも大勢逃げてきた、本当に酷い現場だ。」さらに「彼は我々よりずっと老けてみえるだろう?でも本当はわれ等より若いのだよ。」 それで分かった、カブキの命じたものがマルテスにはどんなものかわからないけれど”No"と言えなかったのだと。”No"というのがトラウマになってしまっていたのだ。”可哀そうなマルテス”と肩に手を置いた。 ヘフェは「ついでに言うけどマルテスというのはあだ名なんだ、しゃくれ顎の変な顔だろ、まるで火星人(マルテス)みたいに。」するとマルテスも負けじと「ヘフェの呼び名は×××というんだ 口数の多いユダヤ野郎という意味なんだ」「こら、それを言うなよ。」と二人は仲が良い。 よくよく聞くと毎朝「お早う、セニョール・ペラード」と挨拶してた隣のヘフェにカブキは「お早う、つるっぱげさん」と言ってたのだ。長い体を折って丁寧に挨拶を交わしてくれていたのに何と無礼なことだ。 「本当の名は?」「いいじゃないのそのままで」(教えて呉れないなら仕方ない今更本人には訊けないし、郷に入らば郷にしたがえか)とカブキは知らなかったふりしてセニョール・ペラードと呼び続けたのだった。 |