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2017年01月31日(火) 
日曜日の午後に自宅から1時間ちょっとのところにあるホテルを見に行った。

このホテルは夫が購読している工業会の雑誌に紹介されていて、正真正銘の田舎にあるのと、基本は木造建築で白木っぽいベランダがあるなど、夫の好きなタイプだというので、そのうち下見に行こうと話していたのだった。

ホテルは同じシュヴァルツヴァルト(黒い森)地方にあるのだが、黒い森といっても広域にわたるので、思ったより時間がかかった。

3時半ごろホテルにつくと、道路に面した側には高級感はなく、むしろ庶民的な宿という印象だったが、その周囲に停まっている夥しい車を見て驚いた。

三分の一ほどはホテルから遠くない同じ郡内の人達、残りはスイス人だったからだ。

そういえばここはシュヴァルツヴァルトの南部だから、スイス国境まで1時間かからない。

チューリッヒ、バーゼル、ベルン、トゥルガオなど、スイス北部からの客が多い。

地理的な利に加えて、ユーロはスイス・フランに対してかなり安くなっているので、スイス人はドイツで格安の休暇を過ごすことができる。

受付は小さくてちょうど数人がチェックインしており、その横を通って奥に進むと、こぎれいなレストランでケーキのビュッフェをやっていた。

満員ではなかったので、そこへ来合わせたウェイトレスが「何かお探しで」と訊くのに答えて、ここでコーヒーを飲めますかと尋ねた。

「いえ、ビュッフェはホテル宿泊客だけなんです」とのことで、あら、残念というと、「コーヒーなら、すぐ向うの方にベーレン(熊)というカフェがあります」と教えてくれた。

この時点で夫はかなり不機嫌になった。断られると、プライドがあるのかそれ以上は何も言わないが、いつもふくれっ面をする。困ったものだ。

相手には相手の事情があり、例えばこのケーキ・ビュッフェなどは外から来た大食いのオッサンや若者に荒らされるのがいやなので、宿泊客に限定しているのだろう。

ま、いいや、とそのベーレンに行くことにした。ホテルのすぐそばで簡単に見つかったが、何だか安宿という印象で、「ここでいいのかい?」と夫は不安げだ。

とにかく中に入ってみましょうよ、とドアを開けて、私は思わず笑ってしまった。

一言でいうと、えらく趣味が悪い。安っぽいシャンデリアみたいなランプがあちこちに置かれ、飾られている花はケシやデルフィニウムなど全て造花でけばけばしい。

しかし見るところが私と違う夫は、ここの床や天井の作りは立派なものだと言った。

私の住む辺りもそうだがこの地区も製材業が盛んで、村に入ってから木造建築専門の会社を数軒見かけた。それから暖炉造りの会社もある。こういう伝統産業が夫は好きなのだ。

ベーレンはカフェ兼レストランで、時間帯もあり、隅っこのテーブルに近所の人らしい若者が4、5人座っているだけだ。

飲み物を準備するカウンターの向こうで、60代半ばに見える男性が、何でしょうか、と尋ねる。

何でしょうかって、この時間ならお茶しに来たに決まってるでしょ。

夫が「コーヒーは飲めるかな」と訊くと、ええ、どうぞ、と言って、おもむろに私たちが腰を下ろしたテーブルにやってきた。

愛想はないが、どことなく愛嬌がある。まじめなんだけどそれが滑稽というタイプだ。

カプチーノとラッテを注文し、私がケーキはあるかと尋ねたら、「いや、今日はケーキはもうないです。チーズとリンゴならあるけど」と言う。

私は???となり、チーズは分かるけどリンゴは生、それとも調理してあるの?と質問した。

オジサンは「んもう!」という表情をして、英語なら分かるかい、と英語で訊く。

夫が苦笑して「アップルケーキとチーズケーキならあるって言ってるんだよ」とフォロー。

私は少しムッとして「これドイツ語・英語の問題じゃなくて、あんたがさっきケーキはないって言ったからよ」と言い返した。

なぜリンゴにこだわったかというと、その前の日曜日、続けて二回私が自己流の焼き林檎を作ってそれが大好評だったためだ。(評する人間は約一名だが。)

焼き林檎は、真ん中をくりぬいてそこにナツメヤシを詰め、ブランデーと砂糖をかけてオーブンで丸焼きにする方法もある。それにアイスクリームを添える。

私はそれがあまり好きでなく、でも買いすぎたリンゴを何とか使わねばと思い、輪切りにしてバター(この場合は塩入)で焼いて、戻したレーズンと砂糖を乗せてからラム酒を注いだ。

焼きリンゴのレシピはともかく、彼が持ってきたアップルケーキはなかなかいける味だ。

チーズケーキを注文した夫も、うん、おいしい、という。

アップルケーキが日本の2倍半くらいの大きさなので、半分を夫に差し出すと、こっちの方がうまいかも、と言い、ケーキが増えたのでまたカプチーノを注文した。

勘定を支払う時「おいしかったわ」と私が言うと、「それはよかった、いろいろ作ったけど残っているのはリンゴとチーズだけでね」と数個のケーキが並んでいるカウンターを指す。

あれ、明日でも食べられますよね、と私は尋ね、夫に「あなたが明日出張に発つ前に食べればいいわ」と言ったが、後半の部分は聞き取れなかったのか、ウェイターの小父さんは「それが明日は休業日なんです」と残念そうだ。

夫が「いや、持ち帰りたいって言ってるんだよ」というと、小父さんはサッと嬉しそうな顔になり「それはいい、でないと今日の夜捨てることになるから。それでいくつ?」と訊くので私は二つを注文した。

ウェイターさんはすぐに箱に入れたケーキをもってきて、3個入ってるけど2個の代金でいい、と言う。5ユーロ、約6百円だ。ちょうどよかった、夫に同行するB氏にもあげよう。

そのレストラン・カフェにはもう一つ特徴があって、壁にずらりと陶器の皿が並んでいる。

ドイツ製らしいものもあるが、マヨルカやポルトガルの焼きものもあり、エイラートとかエルサレムと書いた皿も。

すごいコレクションだ。小父さんは自慢そうに「オーナーが旅行で買ってきたものでね。オランダのもあるよ」と言うので、私が奥の方の青と白の皿を指さして「デルフト」でしょ、と訊くと、そうそう、とまた嬉しそうな顔をした。

それから夫としばらくこの地域の産業の話なんかして、「夏はもっときれいなところなんだよ」と再訪を促す風だった。

どこにでもいる人間たちの、どうということもないおしゃべりだけど、こういう時間こそが私にとっては貴重なのだ。

今風に言うと「心が癒される」のかもしれないが、私は別に心を病んでいるわけではないので癒されるという表現はしないものの、普通に暮らしていることがしみじみと嬉しく思われるひとときだった。

写真は日曜日のシュヴァルツヴァルトの風景

閲覧数604 カテゴリ日記 コメント13 投稿日時2017/01/31 01:36
公開範囲外部公開
コメント(13)
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  • 2017/01/31 17:00
    鉛筆ベッガさん
    あ、zosan、頭の中じゃなくて、是非(体を)お運びください。

    その村はベルナウBernauっていうんですが、そこからドイツで一番高い山フェルトベルク(高いって言っても1500メートルくらいですけど)まで25キロくらいなんです。

    それで、自宅からその村に向かう途中で、ジャジャジャーン!ドイツで一番高い駅がみられるんですよ。

    標高967mで、こちらも大したことないですが、ドイツは森や丘は多くても高い山は少ないので。

    Bahnhof Feldberg-Baerentalでウィキでもご覧になれます。ただ、日本語はありませんけど。

    写真は駅にかかっている、ドイツで最高度にあることを証するプレートです。
    次項有
  • 2017/02/08 00:14
    zosanさん
    > ベッガさん
    そうですか、是非行ってみたいと思います。
    海抜1mくらい(かな?)のおそらく一番低いであろう Emden Außenhafen 駅に行きましたので、一番高い駅にも行ってみたいです。

    5月に行く時に組み込めるかどうか・・・。
    次項有
  • 2017/01/31 23:07
    欧州では人間関係に疲れるところ?利己主義の人が多いのでしょうか?それでも世界のあちこちに日本人が上手く住み付いていますね。
    その日本人たちは共通点があるのかもしれませんね。日本の閉塞感が嫌で自由を求めてる人達でしょうか?
    次項有
  • 2017/01/31 23:31
    鉛筆ベッガさん
    はい、利己主義者はとても多いと思います。みんな自分のことだけで、他人は他人で自分のこと考えていればいいんだから、私は知らない、って態度。

    だからサービス砂漠って呼ばれるんでしょう。

    もっとも日本人は周りに気を使いずぎ、それで自爆するようなところもありますが。

    閉塞感、うーん、確かにそういう面もありますね。それと、ちょっと臆病。
    次項有
  • 2017/02/01 07:06
    これはいい話。
    木工屋さん、わたしも大好きです。
    次項有
  • 2017/02/01 16:40
    鉛筆ベッガさん
    > かーりーさん

    住んでいるのが森の中なので、木造建築の会社も、個人住宅や工場のほか、窓専門、台所専門と様々で、周りには建具屋さん・指物師も多いんです。

    ウチの工場に出入りしている大工さん、クリスマスにはいつも気の利いた木製の小物をくれるので、一昨年末に宝石箱もといガラクタ箱を注文したら、写真のようなのが出来てきました。

    このオジサン、日本でスキーをすると言って先週出かけて、今長野にいます。
    次項有
  • 2017/02/01 17:52
    > どこにでもいる人間たちの、どうということもないおしゃべりだけど、…

     先日、4日間乗り放題の「大人の休日倶楽部パス」(JR東日本)を利用して、鉄道の旅を楽しみました。東北新幹線で3人掛けでした。窓側にカミさん、通路側にカミさんとほぼ同年輩の女性、その2人に挟まれて私。通路側の女性は、持ち物と言えばハンドバッグだけでした。地下鉄や山手線ならともかく、新幹線なのに身軽だな。好奇心を抑えられなくて、「旅上手でいらっしゃいますね」と声をかけたのがきっかけでおしゃべりが始まりました。
     彼女は、私たちと同じパスを利用して青森市の美術館にシャガール展を見に行くところでした。日帰りするとのこと。だから、身軽なのでした。この日に限らず、毎日新幹線で遠出しては、とんぼ返りする。宇都宮に直行し、餃子を食べて、すぐ帰ってきたこともあるとか。
     彼女は上野駅まで数分のところに住んでいて、通勤電車に乗るような気軽さで新幹線を利用しているのでした。
     それだけに、各地の温泉や美味しいものを食べさせる店などに詳しく、カミさんも身を乗り出して、旅の情報交換が始まりました。そこも行った。あそこも。と共通の話題で盛り上がり、私は弾き出される形でカミさんと席を変わって窓側に追いやられてしまいました。
     そんな訳で、気が付いたら私たちの目的地の盛岡に着いていました。慌ただしく別れを告げて下車した次第です。
     
     宿で温泉に浸かっている時や食事の際などに、たまたま隣り合わせになった人たちと話が弾むと楽しい。生きていることがしみじみと嬉しく思われるひととき。まさに「袖振り合うも多生の縁」という言葉を実感します。

     インターネットの世界でも同じことが言えそうですね。^^
    次項有
  • 2017/02/01 18:42
    鉛筆ベッガさん
    > 南総の寅次郎さん
    私の夫がまさに、すぐ話しかけたがるタイプなので、ちょっとひやひやすることもあります。相手は一人静かに座っていたいかもしれないし。

    一方で、話しかけられると喜んで応じる上記の婦人のようなタイプも。

    一度、夫は列車のコンパートメントで隣に来たスイス人女性と話が弾んだのですが、窓際でパソコンを打っていた先客の女性から「話し声がやかましい」と文句を言われました。

    列車って、仕事をする場所じゃないのに、と私もちょっと不快でしたけど、まあ、邪魔してはいけない、と思っていると。

    腹を立てた夫が彼女に「あんた、公務員だろ」なんて言って、それに小うるさい女性が「それはこの際関係ないでしょ」と言い返し、私としては困惑するやら、おかしいやら。

    それもまた思い出に残りますけど。
    次項有
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自分の好きなことがやれる時間があるのはいいですね。
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