「つながり」を研究する人たちは、人や組織がつながる形態には「結合(ボンディング)型」と「橋渡し(ブリッジング)型」の2つがあると分類しています。「結合型」とは、安定した組織の中の人と人との同質的な結びつき方を意味し、内部で信頼や協力関係が深まるので、強力な絆を生みやすくなっています。これに対し「橋渡し型」は、異なる組織間における異質な人や組織を結びつけるネットワークであるとされています。一般的には、結合型ネットワークの下で作られる強固な紐帯(つながり)関係は、内向きの志向が主になることから、ときには行き過ぎた「閉鎖性」や「排他性」につながります。これに対して橋渡し型ネットワークでは、そこでの紐帯関係は、より弱く希薄であるものの、同時にその「ゆるさ」が「自発的」「横断的」な傾向を生み出しやすく、異質な情報や人材への受容性も高まって、社会の潤滑油の役割を担いやすいと言われています。
地域SNSでは、立ち上げ当初はこの「橋渡し型」のつながりが主体であるため、全体として他者を受け入れやすい傾向が全体としてより多くの利用者に「心地よい」感覚を持たせます。しかし、その中で、同質性や地域性という互いの考え方や立場・環境によって特定の人たちと仲良くなる「トモダチの友達化」が進行すると、ネットワーク内に「結合型」のつながりによる活動や会話が目立つようになって、徐々にコミュニケーションは潜在化し、図らずも「閉鎖性」や「排他性」が高まることになります。強いつながりは、さまざまな活動を行うことには不可欠ですが、ゆるいつながりがなくては新陳代謝のないマンネリ化が進行してしまうことになります。地域SNSは、その特徴として「人をつなぐ」という機能に優れており、このような「強い紐帯化」は避けることはできません。となれば、橋渡し型のつながりを意識的に増強しつつ「ゆるい(弱い)紐帯」を常時活性しなくてはならないように思います。
地域SNS研究会の庄司昌彦さん(国際大学主任研究員)は、フランス・パリ市の17区で2002年に誕生したご近所(地域)SNS「Peuplade(ププロード)」には、ランデブーというユニークな機能と紹介しています。
http://www.glocom.ac.jp/project/chiiki-sns/2009/01/…desns.html ここでいう「ランデブー」とは、ユーザ同士が自由に企画する(小さな)オフ会のようなもので、まったく気軽な出会いの機会を創出につながるアクションです。例えば「土曜日にコンサートに行くんだけど、だれかご一緒しませんか?」と仲間を募ったり、「彼氏にふられて、いま急に飲みたい気分なんだけど、一緒に泣いてくれる人急募します!」なんていうのも、立派なランデブーです。
少しカバーエリアの広い地域SNSでは、どうしてもパワフルなユーザの存在が地域的に偏ってしまうことから、オフ会や社会活動などの出会いのチャンスに恵まれない人も少なくありません。このような相談には、これまでなら「オフ会を企画してみて下さい」と助言するしか方法がありませんでした。しかし、オフ会を企画したりメンバーを募集したりすることは、いろいろ負担も大きいことから実現まで持ち込むのはなかなか難しく、その地域でのユーザ同士の活性が生まれにくくなり、結果として出会いの機会が喪失するというジレンマがありました。ププロードのランデブー機能は、まさに「隣人祭り」のようなぬるま湯感覚で、近隣に居住する身近な(であるはずの)人たちと、気軽な出会いの機会を創り出してくれる「場」になっていると言えます。
昨年末、政府は「出会い系サイト規制法」を改正し、「面識のない異性との性交、わいせつな行為、出会い等を主な目的として利用する行為」の禁止要件を強化し、12月1日から施行しました。これに併せて、SNS国内最大手の「ミクシィ」は利用規約を改訂し、本年3月に異性との出会いを目的にしたコミュニティを一斉に削除しました。サイトの信頼性回復を急ぐミクシィにとっては、サイト健全化策のひとつとして絶好の機会になったようですが、これによって「出会い系=邪悪」というイメージが更に深まることには、いささか懸念を感じずにはいられません。公序良俗に反する出会いがはびこるのは、「出会い」という機会や機能が悪いのではなく、安心安全が確保しずらい信頼性の低いネットワーク上で、野放図に人がつながる場を提供する運営者の姿勢にあると思われます。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0903/19/news040.html そこで「ひょこむ」では、メンバー同士が自由で気軽に出会う機会をつくれるように「ランデブー【約束】コミュニティ」を試験的に設置しました。
http://hyocom.jp/community.php?bbs_id=945 このコミュニティに書き込まれたイベントやトピックは、ユーザ全員のトップページに新着表示されるので、「ささやかな呟き」も、より多くのメンバーに目にしてもらうチャンスが生まれます。気に入った企画があれば、案内にコメントしたり、勇気を出して声をあげた人に直接メッセージを送ることで、ゆるい紐帯の新たな出会いが始まるという仕掛けです。コミュニティ自体が、ご近所の人と人との橋渡し(ブリッジ)役を担ってくれると期待しています。
この機能を日本に紹介した庄司さんは、「日本の地域SNSは『過去あったこと』を日記に書いて友達に応援してもらったりすることが多く、これによって『気持ちの共有』が起こっている。ここに過去ではなく、『未来の予定』が書けるようになれば、更に具体的なアクションが起こってくると思われる。そうなれば『体験の共有』ができるので、現在よりも地域SNSのリアル志向が引き出されるのではないか」と言われています。
フランス生まれの「ランデブー」が、日本の地域SNSでも定着し、ブリッジングの活性に役立つことで、ボンディングとのバランスをとりながら、よりリアルな活動との共鳴化・融合化が進んでいくことを期待しています。その担い手は、このブログをここまで読んでくれた、「あなた」に違いありません。
○「隣人祭り」
http://www.glocom.ac.jp/project/chiiki-sns/2009/02/…desns.html http://www.rinjinmatsuri.jp/main/ ○改正出会い系サイト規制法
http://www.npa.go.jp/cyber/deai/business/index.html