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2025年度前期生涯学習論B第11回授業(2025/06/30)録画・要約
【返信元】 6月30日 生涯学習論 第11回 講義について
2025年07月01日 11:59
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生涯学習論 第11回講義レポート 2025年6月30日(月)/大阪産業大学・生涯学習論B(第5限) テーマ:東井義雄「村を育てる教育」と現代の生涯学習 はじめに:今、なぜ「村を育てる教育」なのか? 本講義では、兵庫県出身の教育者・東井義雄(とうい・よしお)先生が唱えた「村を育てる学力」という思想を中心に、学力の意味、生涯学習の意義、そして地域との関係性について深く掘り下げた。AI時代における学びの意味を問い直しつつ、学生たちはペアワークを通して「自分にとっての地域」「学力とは何か」「人を育てるとはどういうことか」について対話を行い、自己と社会へのまなざしを新たにした。 1.「見えないものに騙されない」ための知識 畑井教授は冒頭で、「見えないものに騙されない」力こそが現代の学力であり、単なる知識の詰め込みではなく、知識の構造理解と思考の深化が重要であると説いた。AIが加速度的に知識を処理する時代において、人間には「なぜそうなのか」「それは本当に正しいのか」を問い続ける力が求められる。 知識とは断片的な情報の集積ではなく、個人の経験や生活、価値観と接続された「意味のある知」として再構成される必要がある。そうした学びは、単なる「覚えること」ではなく、「自分のこととして考えること」であり、それこそが「生きた学力」だとされる。 2.「村を育てる学力」とは何か? 東井義雄の思想 「村を育てる学力」とは、教科の成績に表れるような“点数”ではなく、自分の住む地域をよくしていこうとする力である。子どもたちが自分たちの村の課題を自ら発見し、解決に向けて取り組む中で、「学ぶ意味」が実感され、「生き方」が育まれていく。この実践は、兵庫県豊岡市出石町の小学校で展開された。 M君の事例 畑井教授は講義内で、小学生のM君が農村における水路の使い方をめぐって「新しい農法」を模索し、村人を説得した実例を紹介した。これは学びの過程でありながら、生活の改善につながる実践知の体現であった。M君の行動は単なる勉強ではなく、「村を動かす」学びであり、そこには仮説検証・思考・実験・説得という、あらゆる“学力”のエッセンスが詰まっていた。 3.過疎と地方の現実に向き合う 現代の日本は、1,700以上の市町村のうち、過疎地域が過半数を占めている。若者の都市流出、高齢化、産業衰退といった課題が山積している中、「村を育てる」学力は単なる理想論ではなく、地域存続の鍵ともなる現実的課題である。 坪田氏はサン=テグジュペリ『星の王子さま』を引用し、「他者にとってのかけがえのなさ(特殊価値)」の視点が、地域や他者との関係において不可欠だと語った。「この村にしかないもの」「私にしかできないこと」をどう見出し、どう育てていくか——これが、現代における「村を育てる教育」の核心である。 4.「はぶが丘学校通信」と教育の現場 1955年、土肥教諭によって始められた「はぶが丘学校通信」は、子どもと地域、家庭をつなぐメディアとして大きな役割を果たした。手書き・ガリ版・手配りという労を惜しまぬ実践は、「教育は関係性の中にある」という信念の象徴でもあった。 畑井教授は、自身がかつてFAXを導入した際のエピソードを通して、技術の変化が教育の伝え方や届き方にどう影響するかを説いた。これはまさに、生涯学習=生活の中での学びという原点に立ち返る重要な問いである。 5.学力の定義を問い直す 本講義では「学力」という言葉が持つ意味が多角的に議論された。畑井教授は次のような視点を提示した: 教科学力:知識や技能 思考力:考える力・問題を解く力 生活力:生きる知恵・工夫・人との関係性 小さなことに気づく力:感性や美意識、地域への愛着 このように、学力は単なる点数ではなく、「生きる力」「育てる力」「関係をつくる力」といった人間の総合力として捉え直されるべきである。 6.教育の環境と「雰囲気」のちから 「人は雰囲気で育つ」とは東井先生の言葉だが、これは実に深い洞察である。子どもがのびのびと学べる環境には、安心・信頼・尊重といった要素が欠かせない。 畑井教授は、伊丹市での通知表実践や評価論の観点から、「数字では測れない子どもの可能性」をどう見るかというテーマにも触れた。教育とは、「できる・できない」ではなく、「どれだけ夢を持てるか」「どれだけ支えられているか」を問う営みでもあるのだ。 7.対話と自己開示:集団の中で育つ力 学生同士のペアワークでは、自分の育った地域や、これからどんな地域を「育てたいか」を語り合った。そこには、 自分の地元の行事 親や近所の人から受けた影響 教師との出会い 「戻りたい」と思える居場所の有無 といった経験が共有され、それぞれが「地域」と「学び」の関係を再考する機会となった。 畑井教授は「自己開示」が学びを深める鍵であり、信頼関係が育つ土壌であると強調した。今後の社会で求められるのは、知識の多寡ではなく、他者と関わる力、語り合う力、信頼し合う力であるという視点は、生涯学習の未来を照らす重要なメッセージである。 8.AIと共に生きる時代の学び 最後に、AI時代における人間の役割についても触れられた。情報はAIが提供できるが、「意味をつける」のは人間にしかできない。技術の進展に合わせて、学びの内容も手法も変わっていくが、人間の尊厳や関係性、感性といったものは機械には代替できない。 だからこそ、畑井教授は「AIについても調べ、どう付き合っていくかを考えてほしい」と学生たちに呼びかけた。 まとめ:これからの「村を育てる学力」とは 現代社会において、「村」は物理的な集落ではなく、関係性のある空間として広がりを見せている。SNSでつながる「デジタル村」、地域で活動する「リアルな村」、学校・家庭・職場などの「生活の村」——こうした村をどう耕し、育てていくかが問われている。 「村を育てる学力」とは、単なる知識や成績のことではない。 それは、「この場所をよくしたい」「誰かの役に立ちたい」という願いに根差した、人間らしい学びのあり方である。 次回は、天女町の事例を手がかりに、地域づくりと学びの関係についてさらに深く探究していく予定である。 |
6月30日 生涯学習論 第11回 講義について - 25/06/24 08:00 (こたつねこ)