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大阪産業大学生涯学習論2025年度 - トピック返信
2025年度前期生涯学習論B第12回授業(2025/07/07)録画・要約
【返信元】 7月07日 生涯学習論 第12回 講義について
2025年07月08日 06:43



大阪産業大学「生涯学習論B」第12回授業レポート
2025年7月7日(月)/第5限
担当:和﨑宏・畑井克彦

はじめに──地域から問い直す「学び」の意味
本講義では、「生涯学習」の具体的事例として、島根県隠岐郡海士町(あまちょう)の地域再生と教育改革の取り組みが取り上げられた。前回の講義で畑井教授が提起した「村を育てる学力」という東井義雄の思想を踏まえ、今回はそれを現代に活かす地域づくりの実践事例として、離島の教育環境に焦点が当てられた。

本稿では、講義内容を再構成しながら、生涯学習・教育・地域活性化の接点を浮き彫りにし、学生が取り組むべき「文章力」や「課題解決力」との接続についても述べていく。

1. 海士町の挑戦──「ないものはない」から始まる再生
和﨑教授が取り上げた事例は、島根県隠岐郡に属する**海士町(あまちょう)**の取り組みである。地理的には本土から隔絶された離島であり、人口減少・若者流出・産業衰退といった典型的な課題を抱える地域だった。

しかし、同町はキャッチコピー「ないものはない」を掲げ、自分たちの町の可能性を信じて地域再生を実現した。冷凍工場や地産地商を進めただけでなく、教育を「地域の未来を支える根幹」と位置づけ、隠岐島前高校の魅力化プロジェクトを展開。これは単に生徒数を増やす試みではなく、島の暮らし・価値観・自然環境そのものを教育資源と見なし、全国から生徒を募集する「島留学」制度を導入するという、非常に先進的なアプローチであった。

2. 教育を核とした地域創生──「島留学」と「夢ゼミ」
海士町の教育改革は、隠岐島前高校という一つの学校を核に展開された。

「島留学」という制度は、都市部の中学生があえて離島の高校に進学する仕組みであり、そこには「自分らしく学びたい」「地域とつながりたい」と願う若者が全国から集まっている。これに対し町側も「島親制度」を整備し、地域住民が学校と連携して生徒の生活・学習を支える体制を築いた。

加えて、学校独自の「夢ゼミ」では、探究型の学習を重視し、地域課題をテーマにしたプロジェクト学習を展開。生徒たちは地域住民や行政と連携しながら、自分たちの力で課題を見出し、解決へのプロセスを考えるという「問題解決型学習(PBL)」を日常的に経験している。

3. 東井義雄の思想と問題解決型学習の接点
本講義では再び、教育者・東井義雄の思想が参照された。東井は「村を育てる学力」という言葉で、教育が子どもの生き方や地域との関係を育むものであることを提起した。ここで重視されるのは、教科書的知識の蓄積ではなく、「自分たちの暮らしをより良くする」ための実践的知恵、すなわち「生活に根ざした知」である。

その思想と、海士町の教育改革は深く通底している。離島の教育現場では、まさに生徒が自らの環境を見つめ直し、課題を発見し、行動する中で、学びが生活と不可分であることが実感される。このような教育観は、「教科の論理」と「生活の論理」をつなぐ現代の生涯学習の核心と言えるだろう。

4. リベラルアーツと文章力の意義
今回の講義では、学びの手段として「リベラルアーツ」の重要性も繰り返し語られた。リベラルアーツとは、単に知識の幅を広げるだけでなく、「ものごとの背景を読み解き、意味を再構成する」力を育むものである。坪田氏は、読書・要約・思考の訓練を通して、現代人に求められる「情報を読み解く力」「表現する力」の育成を強く訴えた。

その実践のひとつが、学生に課されている「800字レポートの習慣化」である。和﨑教授は、結論先行型の構成、行間の取り方、段落の意味など、文章表現の具体的な技術を丁寧に紹介し、文章を通じた思考整理の訓練の意義を強調した。

5. 「失敗から学ぶ力」と対話の姿勢
授業後半では、「失敗」についての議論も印象的だった。坪田氏は「失敗は貴重な学習の機会である」と語り、日本人にありがちな「失敗を避ける文化」への警鐘を鳴らした。和﨑教授や畑井教授も、教育現場での試行錯誤や、多様な立場の声を丁寧に聴く姿勢の重要性を説いた。

ここで特に強調されたのが、「効果的なコミュニケーション」である。畑井教授は、自身の対話スタイルとして「相手の言葉をそのまま返す(反復)」「否定しないで聴く」「背景を探る」というポイントを挙げ、これが信頼関係を築き、学びを深める鍵になると説明した。

6. 教育と地域をつなぐ「共育」の可能性
全体を通して、本講義が提起したのは「学びと地域、教育と社会は切り離せない」という根本的な視点であった。海士町のように、教育が地域の未来を左右する実例は他にも存在する。だが、それを成し遂げるには、教育者・住民・学生・行政など、多様な立場が対話を重ね、「共育(ともに育つ)」という発想で関係を築く必要がある。

畑井教授が紹介した「夢ゼミ」も、単に若者の学びの場にとどまらず、地域そのものが学び、変化していく場となっている。これこそが、AI時代における生涯学習のリアルな姿である。

7. 今後の課題と学生への期待
和﨑教授は最後に、学生たちへいくつかの課題と期待を伝えた。

読書習慣の定着(週3~4冊)
読書内容の要約訓練(1500字程度)
結論→理由→根拠という文章構成の訓練
地域住民の関わり方の考察
次回の授業(サイバー文明論)に向けた事前学習

これらの課題は、単なる宿題や訓練ではなく、「自分の学びを、誰かの役に立つ学びへと転換する」ためのステップであるといえる。

結論──教育とは、地域を再生する力である
今回の講義を通じて明らかになったのは、「教育とは地域社会を動かす力になりうる」という事実である。東井義雄が語った「村を育てる学力」は、今や過去の理想ではなく、現実の地域課題に応える手段として再評価されている。

海士町の実践は、「学びが地域とつながるとはどういうことか」を私たちに問い直し、「誰もが学び手であり、育て手でもある」という生涯学習の原点を示してくれた。教育を通じて何が変わるのか、そして私たちは何を育てていけるのか——その問いに、学生一人ひとりが自らの言葉で応えていくことが、これからの社会に必要とされている。

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