このシリーズを始めて2回でストップしたままになっていた。今回は中之島の名建築に続いて、その南にあたる「船場」と呼ばれている地域の名建築を紹介しよう。 船場というのは、土佐堀川、東西横堀川、長堀川の4本の川に囲まれた地域を指す(長堀川から道頓堀川までの「島之内」を含むと考える人もいる)。 この辺りは古代は海であったが、大坂城の築城と合わせて陸地化され、江戸時代には「天下の台所」の中心として商業地区として発展し、近代になっても繊維産業と製薬業のメッカとして大いに繁栄を極めた。 その後、第二次世界大戦で焼け野原になったが不死鳥の如く立ち直ったが、繊維産業の衰退と経済の東京一極集中により、相対的な地位は下落している。
しかし、この地域には幸いにも戦災で焼け残った近代建築がいくつかあって、往時の繁栄を偲ばせてくれる。 その中でも、僕が名建築と思ういくつかをを紹介してみることにする。
❍ 旧住友銀行本店(現三井住友銀行大阪本店営業部) とにかく堂々たる建築である。外観は石張りだが、御影石ではなく、やわらかい肌あいと暖かい色を持った石材を使っているのがいい。ギリシャ建築風の巨大な正面玄関は住友の威信を象徴しているように見える。
❍ 愛珠幼稚園と旧小西儀助商店(現コニシ) 木造建築が戦災で焼けなかったのは奇跡と言ってよい。大阪市立愛珠幼稚園は大阪最古の幼稚園で、戦前までは船場の大店(おおだな)のぼんぼんやいとさんたちが通っていたのだろう。(国指定重要文化財) 旧小西儀助商店は「薬の街」道修町(どしょうまち)の堺筋の角にある。4棟の連続した黒壁の重厚な建物は、国の重要文化財に指定されている。(社屋として使用されているので見学不可) どちらも木造の低い建物だが、周りをとり囲む高層ビルに負けない力強さが感じられる。それは歴史がつくった貫禄というものだ。
❍ 生駒時計店 旧小西儀助商店の一つ南の平野町(ひらのまち)の角に建っているのが生駒時計店の生駒ビル。5階建ての小さな建物だが、全体のフォルムも細部の飾りも格調高い建物だ。3階から上の窓が2段になっているのが面白く、特に2階の丸窓が印象的である。また、外壁のスクラッチ・タイル(引っ掻いたような模様のあるタイル)も美しい。 ❍ 小川香料大阪支店 生駒時計店から西へ入ったところにある小川香料大阪支店、各階の窓を切ったように設置された庇が面白い。玄関扉の斜め格子と裾の金色は高級感があり、脇玄関の上のステンドグラスも格調が高い。決して巨大企業とは言えない会社の社屋にこれだけのものをつくったということは、今では信じられないことである。
❍ 綿業会館 かつての繊維の街・大阪を象徴する建物だ。1階が石張り、2階から5階がスクラッチ・タイル張りになっているが、屋上に銅板葺きのペントハウスを持つ美しい建物だ。もちろん、有形登録文化財にしていされている。2階の腰につけられたバルコニー風の飾りも美しいし、玄関の扉とその中に見えるホールのシャンデリアは、高級ホテルを思わせる。
❍ 三木楽器 開成館 中央大通を越えて心斎橋筋を少し南へ行くと三木楽器の本社がある。小さな建物だが、よく見ると歴史を感じさせるものがある。1825年(文政8年)創業という老舗(当初は書籍商)で、明治に入って楽器販売を手掛けるようになったという。玄関の上に掲げられた表札には「書籍・楽器 大阪開成館 三木佐助」と書かれている。壁面にとりつけられたレリーフにも歴史が感じられる。
位置図
朝(7時30分)の気温:3.6℃、湿度:73% 昨日の最低気温:1.3℃、最高気温:9.9℃、最低湿度:39%、最高湿度:70% |