ではユニークな個性溢れる歌い方に次いで大事なことは何でしょう。 それは「タンゴを歌う」ことなのです。ボレロでもなくカンツォーネでもなくタンゴな歌いでタンゴが聞こえてくるようにする、歌がタンゴのMatizを帯びていることこそが肝心なのです。タンゴのMatiz(マティ-す)とはタンゴ色、タンゴの風合い、タンゴのニュアンスとか雰囲気、タンゴの香りあるいは匂い、またタンゴ臭、タンゴ味といった言葉で伝えようと試みられてるものです。テクニック上ではタンゴ演唱三つのレ、つまり「ヌレ」「キレ」「ユレ」を駆使して漂わせるものでしょうが理想を言えば体得されているべきものでしょう。Matizはどうすれば体得できるのでしょうか、それは沢山の本物を全身に長い期間浴びて真似て浸みこませるほかありません。胎内にいる時に始まって浴びて学び続けているポルテーニョにはとてもかないませんが、暇さえあればタンゴを聴いて口ずさむよう心掛けましょう。赤ん坊が母親を真似て育つように、或いは「芸事はまねごと」としてよい物を徹底して真似ることです。 赤ん坊は母親を選べませんが、幸い我等は本場ものを聴いた中から自分に合いそうなのを選ぶことができます。選んだら徹底して真似をすることです。ピアソラがクラッシック留学したときのエピソードのようにく、もう抜くことが出来ないくらい浸みこませることです。ほかのジャンルを歌ってもタンゴになってしまうくらいにまでタンゴを血肉にしてしまう気構えで取り組みましょう。 真似をするのとUnicoを目指すのとでは相反するではないかと思われるかも知れませんが、それは違います。真似は絶対にし通せません、必ず工夫しなければならないときがきます。その工夫はすでに浸みこんだ血肉で行うので、その工夫の苦労の先にはタンゴのMatizを帯びたUnicoな歌が産まれるのです。 次からはUnicoとMatizそれぞれについてもう少しはっきりさせましょう。 |