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2013年07月30日(火) 

哲学の名著には、地域SNSの運営においていろいろ考えさせられるキーワードが多い。情報通信と哲学は、天地ほど異なる学問と捉えられがちだが、ネットワークという生き物を取り扱う上で、哲学的思想は不可欠な要素である。名著には、自分の周辺環境や悩ましい課題と非常に似通った発想と数多く遭遇する。その度に自分のこととして考えを深めることによって、思考の迷路からの出口にたどり着くことができる。この積み重ねが確固たる信念や明確な思想が組み上げられていく。

ルソーの『社会契約論』の全体を貫く精神は、すべての人間に「一般意志」が備わっているという考え方だと思う。「意志」とは個人がなにかを求めて行動を起こすことであるという。この意志には、「個別意志」と「一般意志」があり、一般意志は個人的な欲求や事情を越えたところにあり、個々人が自分勝手になにかを目指して行動することは一般意志とはいわず個人意志であるというわけだ。

この一般意志のおかげで人と人がつながり、共同生活を営み、社会をつくり、国家をつくり、社会や国家を前へと推し進めていくとルソーは考え、「一般意志が人間の社会生活の根拠をなす」という。「本能」「肉体の衝動」「欲望」「自分の好み」という個別意志の対岸にあるのが「正義」「道徳性」「義務の声」「権利」「理性」という一般意志である。しかし昨今の社会状況を見ると、どうも個人意志が尊重されるあまり、社会意志の存在すら否定されかねない風潮を感じずにはいられない。ルソーの描く市民社会とは、過去の麗しき幻想に過ぎなかったのだろうか。

地域SNSのイベントやオフ会で参加している人たちと交流すると、満面の笑顔で応対してくれる人の多さという点が他の集まりではあまり感じられない特徴である。少し深く語り合ってみると、その人たちが自分たちの利己的欲求だけではなく、参加している「場」に対する共通の意識を持っていることに気づく。多くが他のメンバーに対する扶助意識が強く、喜んでもらうことに歓びを感じると言う。「支え合う」という意欲が高いひとたちで満たされた「場への貢献」という感覚は、実際に顔を合わせている時間だけでなく、その後は地域SNSというバーチャル空間で更に醸成されていく傾向がある。個人の意志でありながら一個人の私的な関心を超えて、みんなでどう助け合ってしあわせに生きていくか、を考えて行動に起こす一般意志が育つのである。

同じSNSでも広域大規模なmixiでは、地域SNSの利用者間に出現する一般意志の存在を、現在はほとんど感じることができない。しかしmixiにおいても、登録者数が数十万人程度の創始の時期には、同様の雰囲気が存在したという証言は少なくない。規模が肥大化しサイト内の信頼感が消失していくに従って、芽生えかけた一般意志のつぼみの成長を阻害する要素が働き、人を個別意志に閉じ込める流れが蔓延したのであろう。

ルソーは、一般意志の下に人びとが結びつき、そのとき互いの間に交わされるのが「社会契約」であるという。社会契約は「自由」と「平等」というふたつの原理で支えられている。18世紀のフランスは絶対王政下にあり人々の自由な活動を許すような社会ではなかった。封建制や王制を揺るがす自由への希求は、社会に不安や混乱をもたらしたが、ルソーはそれらも含めて自由こそが社会を豊かにすることを説く。一般意志の下の自由による社会契約が、ある秩序を持ったカオス(混沌)を生み出し、豊かさを共有することを示したのである。

自然状態にあって人間はけっして平等ではない。むしろ肉体的・精神的な不平等につきまとわれている。人間社会に平等の原理をもたらすには、自然を超えゆく道徳観念や法観念を行き渡らせることが必要である。それを可能にするのが個々人の保有する一般意志の存在である。平等の原理についても実現の途上にあるというのがルソーの歴史認識であったが、その困難さも同時に理解していた。もうお分かりだろうが、地域SNSには、ルソーの考えたものに近い自由も平等も存在している。

自由と平等を規範とした社会契約の成立する社会づくりが求められているのは、中世のヨーロッパだではない。いや、その必要性をそれ以上に感じているのが現代社会に生きる私たちではないだろうか。「人間への限りない信頼」を『社会契約論』として中世社会に提示したルソーの夢は、21世紀の現在において地域SNSというローカルなネットワークシステムの運用によって、徐々に実現に向けて積み上げられつつあると言えるのである。

『社会契約論』,J.J.ルソー,桑原武夫訳,1954,岩波書店
『いまこそ読みたい哲学の名著』,長谷川宏,2007,光文社文庫

閲覧数1,120 カテゴリ出版 コメント2 投稿日時2013/07/30 06:42
公開範囲外部公開
コメント(2)
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  • 2013/07/30 11:35
    aoitoriさん
    哲学を持った取り組みというのは強いですね。
    逆に、哲学を持たない組織や経営は脆いですね。
    ルソーの「社会契約論」による個別意志と一般意思意志の調和が求められているのは、まさに「現代」だと思います。
    その足がかりとなるのが地域SNSであると思いました。
    一つの強力な取り組みであると感じました。
    次項有
  • 2013/07/30 11:42
    > aoitoriさん

    より多くの利用者が社会的ビジョンを持ってくれれば、実現することは不可能ではないと思います。
    次項有
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