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2013年08月03日(土) 
 
 シリコンバレーでは、21世紀型情報市民社会の構築に向けた「壮大な実験」が始まっています。その試みの中心的存在が、ジョイントベンチャー:シリコンバレーネットワーク(JV:SVN)やスマートバレー公社(SVI)です。ここ数年の取り組みを見ていると、当初の「地域の再活性化」という性格を脱して、21世紀に向けた新しい地域イニシアティブの中核としての性格を強めています。SVIは1998年12月、当初の目的を達成したということで解散し、その人的ネットワークという資産を使って、新たな目標を持ったNPOを多数生み出しています。1990年代から始まったインターネット利用の急速な拡大が、このようなダイナミックな展開の基盤となっています。
シリコンバレーはハイテクやベンチャー企業のメッカという印象で語られることが多いですが、今やそれだけではなくJV:SVNやSVIという新しく誕生した地域推進機関の活動とインターネットという市民社会の武器との相乗効果によって、21世紀型社会システムを構想し、次世代のライフスタイルのデザインをイメージするまでに至っています。

1.ジョイントベンチャー:シリコンバレーネットワーク

ジョイントベンチャー:シリコンバレーネットワークの形成

 1980年代後半からの米国経済の停滞の中で、シリコンバレーでは停滞の責任を他者に転嫁し、なすりつけあう雰囲気が生まれました。昨今の日本にもこの傾向が見られますが、彼らが「非難の文化」と呼んだこの状況をなんとか打開しようと、サンノゼ市商工会議所のリーダーや地元スタンフォード大学の教授たちが立ちあがったのが1992年1月のことでした。
ここから3年半、組織を再編しながら彼らが採用した戦略は、徹底した課題認識と提示、それに市民参加型のプロセスで、そこには5つの原則がありました。

1)十分に時間をかける
第一の原則は、協働作業に弾みをつけるために十分な時間をかけるということです。協働作業には紆余曲折がつきもので、前進するためにはこの課題に対して、ある時は許容して協調し、ある時には先導しながら協力するという柔軟な対応が必要でした。

2)トップダウンとボトムアップのバランスを保つ
第二の原則は、「市民起業家」と呼ばれる地域のリーダーがリーダーシップを取って行うトップダウンと、協働作業に携わる草の根の市民との相互作用を活性化させるというもの。

3)大きなビジョンを持ちと実現可能なアクションを実行する
第三の原則は、障害となる古い規範を打破するためには、大きな夢を抱くことが必要。しかし直ちに成果を生むものではないので、実現可能な一歩を応援しステップバイステップで実行することを奨めました。
4)インターネットの活用とサロンの役割
第四の原則は、常にアイデアと人々を結びつけるためさまざまな道具を試し、インターネットなどを使って新しいパートナーシップを拡大していくことが大きな効果を発揮しました。シリコンバレーにはさまざまな形で、市民起業家らが集う「サロン」があり、これがいわば「ひらめきの場」としての役割を果しています。「サロン」は内向きに閉じてしまうことが多いが、シリコンバレーでは常に外に対してオープンであることが重要と考えていました。

5)測定可能な評価と責任を明確に
第五の原則は、測定可能な評価と責任を明確にするということでした。発展的な参加型のプロセスにおいては、次第に参加者間で信頼感が醸成されます。しかし信頼感が深まれば深まるほど、その成果への評価はあいまいになります。常に節目節目で効果測定がなされ、達成度に関して参加者全員が共通の認識を持たなくてはなりません。この「責任」はアカウンタビリティ(報告責任)であり、リスポンスビリティ(実行責任)ではありません。事前に責任を果すための情報開示が重要であることを大切にしました。

 シリコンバレーには、そこに住む人々の人間性を表して、3つのポリシーがあります。

1)オープンネス
常に開かれた意識の下、新しい関係作りを目指しています

2)フェアネス
企業の大小や社会的地位などに関わらず、常に対等な立場で議論します

3)パートナーシップ
常に「連携」することを目指して、信頼の上に相互の関係を深める努力をします。
このポリシーと、以上の五原則のもと、JV:SVNは三段階に分けてまったく新しい取り組みを実施することになるのです。

 第一段階は、1992年3月のジョイントベンチャーの開始から、1992年7月のレポート「危機にある経済」の発表までです。シリコンバレー所在の大企業であるアプライド・マテリアル社の社長ジム・モーガンの個人的な援助により、世界的なシンクタンクであるSRIインターナショナルが地域の評価分析、課題の抽出を行いました。1992年7月、サンノゼ市のホテルで開催された発表会には、1000人もの地域各界のリーダーたちが集まりました。
この時点では、参加者の多くが報告書の結果について懐疑的でした。これは彼らが後にまとめた「地域再活性化の学習」に触れられており、当時のシリコンバレーの地元紙であるサンノゼ・マーキュリーニュースの報道でも、将来の財政的見通し等に対して極めて懐疑的ものでした。

 第二段階は、1992年9月の第二フェーズ開始から、1993年7月の「21世紀コミュニティの青写真」の発表までで、地域住民参加型プロセスによって将来の戦略を練った時期です。まずJV:SVN理事会は、第二段階が開始される前3ヶ月間を費やして、協働作業戦略プロセスを作り上げました。これは、作業部会の編成と今後の進め方に関する全体スケジュールを決めたものです。第二フェーズに入ってからは、リーダーシップグループを中心に、産業作業部会と社会基盤作業部会の下に、13のテーマ別作業部会を設置して、ほぼ9ヶ月間の間に1000人以上にも上る人々が戦略の策定に関わることになりました。
このようなプロセスを経て、1993年7月にできあがったのが「21世紀コミュニティの青写真」という報告書です。この報告書で最も注目する点は、作業部会がベースとなった13の事業組織が明らかにされて、具体的事業として報告書に盛り込まれていたことです。併せてこの報告書を作成するプロセスの中で「市民起業家」という新しい人間像が生み出されたことは、さらに特筆されることになりました。

 第三段階は、州上院議員であるベッキー・モーガンが、JV:SVNの代表に選出された1993年7月から現在に至る実行段階です。1993年8月からJV:SVNは具体的な活動を始め、その進展とともに賛同者の輪を広げてゆきました。1993年8月、バンクオブアメリカが25万ドルを寄付したのに触発されて、多くの寄付も集まるようになりました。そして1993年9月、シリコングラフィックス社のCEO、エド・マクラッケンが共同議長を引き受けたことが、JV:SVNの信頼と可能性を飛躍的に高めることとなりました。

 1994年に入り、当初は冷ややかだったマスコミも、JV:SVNに好意的な評価を与えるようになりました。1995年7月、JV:SVNは13の事業組織を再編して、「ビジネス環境」、「ビジネス開発」、「起業家育成支援及び社会基盤と生活の質」の三分野に11の事業組織を構成する形になりました。JV:SVNはその後、このような手法に自信を深めて、1995年9月に「コネクト'96」と称して世界の35地域の代表を召集して、世界地域間会議を開催。以後、ノルウェーなどを経て、2001年1月には「コネクト2000」が、京都で開催される予定になっています。


プラットホームとしてのJV:SVN

 JV:SVNは、コア組織をコーディネーターとする柔軟なネットワーク組織です。いわば、一連のネットワーク関係を通じて、人的、金銭的、組織的資源を連携して活動を行う、地域のバーチャル・コーポシーションなのです。コア組織は民間主導、ボトムアップ型NPOで、事務局は極めて簡素な構造になっています。最高意思決定機関としての共同議長会議(スーザン・ハマー<サンノゼ市長>とエド・マクラッケン<シリコン・グラフィックス社最高責任者>が共同議長を務めている)、管理運営をつかさどる理事会、出資者を集めたリーダー会議がおかれています。

 コア組織は、ネットワーク全体の接着剤として機能しています。コア組織と11の各事業組織との間では、毎年覚書が結ばれ協力関係が設定されています。コア組織は、各事業の目的達成度
をモニターするため、四半期ごとに状況報告書を作成するとともに、二ヶ月に1回、リーダー会議に進捗状況を報告します。各事業相互間の協力も広範に行われ、スマートバレーインクと21世紀教育構想とは、連携してシリコンバレー地域の教育改革を目指す「チャレンジ2000」を実施しています。

 11の事業組織の概要は、

[ビジネス]
●環境シリコンバレー経済開発チーム
ビジネスに対する相談窓口の設置、スマート・チームと呼ばれる官民一体の小人数によるコンサルティング、シリコンバレーのビジネス環境の変化に対する早期警告システムの運営などをおこないます。

●規制改革審議会
市町村、郡等の許認可手続きの合理化、規制緩和のあり方について提言し、その実現を目指します。

●税制・財政審議会
連邦・州政府等に対して、ハイテクビジネス育成のための税制、財政政策のあり方について提言し、その実現を目指します。

[ビジネス開発と起業家育成支援]
●企業ネットワーク構想(NPO)
スタートアップ段階にある企業の起業家と、知識、経験を有する企業経営者、専門家から構成される小人数のチームとのネットワークを構築します。

●シリコンバレー世界貿易センター(NPO)
シリコンバレー企業の輸出振興を図るために、ワークショップの開催、各種アドバイス等の支援活動を行います。

●ビジネス・インキュベーション・アライアンス
インキュベーションセンターを設置してオフィススペースの提供、専門家による指導等を行います。

●防衛・宇宙コンソーシアム(NPO)
防衛関連企業の民営化を推進するため、防衛関連企業と民間企業との汎用技術面での提携を促進します。

[社会基盤と生活の質]
●21世紀教育構想
小中学校における教育レベルの向上を図るために、高度な標準化の設定を行います。

●環境パートナーシップ公社(NPO)
環境産業育成のために、インキュベーションセンターを設置して、環境重視型企業を育成します。

●スマートバレー公社(NPO)
シリコンバレーの情報スーパーハイウェイを構築します。

●健全なコミュニティ・健全な経済構想
各地域の実情に応じ、健全な経済環境を実現するための方策について提言を行います。

 このように、JV:SVNは、各自治体の枠にとらわれるのではなく、シリコンバレー全体をひとつの共生地域と認識して、分権的、水平的、ネットワーク型構造を有する基盤として機能をはじめます。地域の産業クラスタの能力をフルに発揮して、プロダクト・イノベーションを起こす産業システムの形成とその成果を、豊かなコミュニティの創造に役立てる結び目として、大きく寄与しています。この仕組みを支えるのは、知識、経験豊かな人材であり、人的資源・研究資源をプールしながら、プロジェクトごとにコンソーシアムを編成し、事業目的を達成するといった「プラットホーム」の役割を果しています。

(参考・引用文献)
○ジョイントベンチャー方式:地域再活性化の学習
Joint Venture:Silicon Valley Network
○シリコンバレー革命 -未来型経営が始まった-
日本経済新聞社編
○シリコンバレー・モデル -マルチメディア社会構築へのメッセージ-
今井賢一監修 NTT出版
○シリコンバレー・ウェーブ -次世代情報都市社会の展望-
加藤敏春著 NTT出版
○市民起業家 -新しい経済コミュニティの構築-
D・ヘントン他著 日本経済評論社

閲覧数712 カテゴリ出版 コメント0 投稿日時2013/08/03 17:42
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