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2013年10月01日(火) 
 「港町神戸と共に歩んできた老舗書店『海文堂書店』が(9月)30日、一世紀近い歴史に幕を下ろした。」と神戸新聞が伝えています。
 海文堂書店は、元町通り商店街の中程にあり、私も大学時代に通学途中に時々立ち寄った書店です。
 ある時何気なしに2階の売場へ上がってみると売場の一角に書店にしてはチョット場違いな雰囲気のスペースがあった事を覚えています。
 このスペースこそ「78年開設の海文堂ギャラリー」だったのでしょう。
 しかし、通りすがりのヒヤカシの客である私には、予期せず現れた「一級の絵画」をジックリと鑑賞するような余裕はありませんでした。
 そして、スゴスゴと一階の普通の書店のスペースへ退散したものです。
 しかし、この「海文堂ギャラリー」は当時の島田誠社長にとっては相当の思い入れを込めたギャラリーだったようです。
 神戸新聞はこう書いています。
「出版社主導の絵本原画展などを開く他店とは一線を画し有名無名を問わず一級の芸術品を展示。美術家のみならず演劇や映画関係者らも引きつけた。」
 そして、ある日この評判を耳にした中年の弱々しげな男が、すがるような想いで海文堂ギャラリーに電話を掛けてきたのです。

「私が長年描き貯めた絵を見て頂けませんか?」

 島田さんは、当時をこのように振り返っています。
 このような事はよくある事。本人の思い入ればかりが強く絵の完成度は低いものがほとんどなので、本気では取り合わない事にしている。
 しかし、この時の電話は「余りの切迫感に断りきれなかった。」と述べています。
 
 そして、この一本の電話が糸口となって、石井一男さんは海文堂ギャラリーに彼の女神像を飾ってもらえるようになります。
 その後に阪神淡路大震災が発生します。
 石井一男さん描く女神像は大震災に見舞われて途方に暮れる多くの人々の心を慰めます。
 この静かだが根強い評判が、後に後藤正治著『奇跡の画家』そして情報番組「情熱大陸」を介して日本全国に広がっていったのです。
 
 神戸新聞によれば、島田さんは「当時の元町は今ほど人通りがなく、足を運んでもらうには、書店という枠を越えた文化力が必要と考えた」と述べています。
 島田さんは「文化力」という発想の下、若き芸術家を支援する「亀井純子文化基金」や震災後の神戸の芸術復興のための「アート・エイド・神戸」そして「神戸文化支援基金」を通じた東日本大震災の被災地支援等々多方面で尽力されています。

 その「文化力」の一つの象徴が海文堂ギャラリーだったのでしょう。

 このような高い志を抱き具体的な形で実行してきた書店が、ひっそりと姿を消して行く。

 神戸新聞の取材に答えて、福岡宏泰店長はこう述べています。
 「8月に閉店を発表してから連日、売り上げが通常の4~8倍になった。うれしい半面、これだけ潜在的なお客さまがいたなら、もっと続けたかった」


 最後の一言、悔しさが滲んでいます。

 
 出版業界の業績は長期低落傾向であり、「ネット書店の台頭」そして「電子書籍化の流れ」が町の本屋さんをどんどん窮地に追い込んでいます。
 また、某ネット書店は配送料金の無料化のための経費負担の一部を運送会社に押し付けようとしているようです。
 耐えかねた運送会社がネット書店との取引を止めたとも聞きます。
 そして遂には、某ネット書店は自社独自の運送会社を持とうとしてるようです。

 そう言う私自身も送料無料のネット書店を利用しています。
 
 志とか善意という面と迅速配達・送料無料という利便性という面を天秤にかけた場合、私を含む大多数の消費者は利便性という目先の利益を優先させています。
 しかし、私達は消費者という側面と商品・サービスの提供者という側面と両面を持っています。
 消費者として利便性や低価格を追求する一方で、提供者側の一員として非常に厳しい競争に引き込まれて最悪の場合には仕事を失います。

 不況が長引く中、自然と節約志向が身に付きましたが、回り回って自分の首の周りが結構きつくなってきています。

 
 このような情況で、解雇されたり会社が倒産した場合「強欲な事業主が悪い。」とばかり言っておれるでしょうか?

 はたして「自分は無関係だ。」と言い切れるでしょうか?


 
 港町神戸の老舗書店「海文堂書店」の店仕舞いの様子です。
 最後の最後、万感の想いがこもった銅鑼が打ち鳴らされています。
 
 http://www.youtube.com/watch?v=yLoiLovNAvY  

閲覧数1,159 カテゴリ日記 コメント2 投稿日時2013/10/01 19:59
公開範囲外部公開
コメント(2)
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  • 2013/10/02 04:41
    こんなお話しに深まっていきそうです。時間を掛けてでも日本で再生したい民族の気風なんですが。
    --------------------
     経済学者の神野直彦が、スウェーデンのストックホルムから100キロほど離れた小さな町を訪問した時のことである。ヨーロッパのどこにでもあるような小さな商店街に来ている町の住民は、「田舎だから物価が高い」とこぼしていた。ストックホルムはそう遠くないのだから、どうして買い物に出かけないのかと訊くと、住人たちは「そんなことをしたら地元の商店が潰れてしまう。商店街が消えて困るのは町の住民で、なかでも車に乗れない子供やお年寄りだ。だから少々高くても日用品は地元で買う」と語ったという。地域共同体(コミュニティ)は、人間が生を受けてから成長し、老いて死ぬまでのすべての機能がふくまれている生活空間である。この包括的な機能が満足できなくなると、地域共同体は崩れ始めて住民の流出が起こる。しかしここでは、代々受け継がれている地域共同体がしっかりと生きているから、多くの先進国が苦悩しているような町の空洞化は起こらない。
    -----------------------
    全文は以下のブログにあります。
    『社会科学モデル国家を支えるコミュニティ・プラットホーム』
    http://hyocom.jp/blog/blog.php?key=77134
    次項有
  • 2013/10/02 20:16
    > こたつねこさん
    コメント有難うございます。
    店長さんの「これだけ潜在的なお客さまがいたなら、もっと続けたかった」という言葉は非常に重いと思います。
    普通は「書店側の営業努力が足りなかった、甘かった」という文脈で語られますが、もうそろそろ「お客様は神様です」という巧妙な仕掛けに翻弄されている自分の姿に気づく時期ではないでしょうか?
    奇妙な店舗が沢山並ぶ各地の本通商店街の姿は、商人たちの姿であると共にその町のお客さんの姿でもあると思います。
    次項有
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