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2014年05月27日(火) 
第十二話「社会科学モデル国家を支えるコミュニティ・プラットホーム」

中村の発想の原点は、高校の授業で教員の畑井克彦(58)が話した北欧スウェーデンにおけるコミュニティモデルがあった。
経済学者の神野直彦が、スウェーデンの首都・ストックホルムから100キロほど離れた小さな町を訪問した時のことである。ヨーロッパのどこにでもあるような小さな商店街に来ている町の住民は、「田舎だから物価が高い」とこぼしていた。ストックホルムはそう遠くないのだからなぜ買い物に出かけないのかと訊くと、住人たちは「そんなことをしたら地元の商店が潰れてしまう。商店街が消えて困るのは町の住民で、なかでも車に乗れない子供やお年寄りだ。だから少々高くても日用品は地元で買う」と語ったという。

地域共同体(コミュニティ)は、人間が生を受けてから成長し、老いて死ぬまでのすべての機能がふくまれている生活空間である。この包括的な機能が満足できなくなると、地域共同体は崩れ始めて住民の流出が起こる。しかしここでは、代々受け継がれている地域共同体がしっかりと生きているから、多くの先進国が苦悩しているような町の空洞化は起こらない。

日本の1.2倍の国土に約900万人が住むスウェーデンでは、低所得者層、高齢者、障害者、失業者など、社会的弱者もあるレベル以上の生活をすることが保障しながら、経済的な発展をバランスよく実現されている。日本では、「高福祉高負担の北欧型社会の代表」のように語られることが多いが、単なる重税の下にお金を分配しているのでは国民は続かない。「社会科学の実験国家」のモデルとして成功してきた大きな理由には、地域開発グループ(local development group)と呼ばれるコミュニティの存在があった。

19世紀後半のスウェーデンでは、隣国デンマークから学んだ「フォルク・ローレッセ(folkrorelse)」という学習サークル運動が国内各地で起こった。当初は、広く国民生活に密着した社会交流の機会としての運動であったが、次第に、禁酒運動、自由教会運動、労働運動、成人教育運動、スポーツ運動、年金生活者団体や障害者団体による運動など、さまざまな具体的地域の課題が、メンバーシップの下で議論・実践されるようになった。そして、1990年代の経済不況に伴いこれらの学習サークルが急増し、次第に全国・地方のグループが連携して構造化されて、現在の地域開発グループが生まれた。

スウェーデンでは日本の市町村にあたる「コミューン」という行政単位があり、その数は約300。地域開発グループは自主的にグラスルーツ(草の根)で組織され、その数は約4000以上に上る。地域開発グループは、生活単位ごとにコミューンの機能を補完するサブ・コミューンとしての位置づけにある。

こうした地域開発グループの目的は、地域経済の再生だけでなく、人間の絆を強め、地域社会の民主主義を活性化することである。ヨーロッパの社会経済モデルでは、人の絆は社会を支える社会的インフラと位置づけられていて、人の絆を強めれば重化学工業を基軸とする産業構造から、情報産業や知識産業を基軸とした「知識社会(knowledge society)」への転換が促進され、経済の活性化も可能になると考えられている。スウェーデンでは、地域住民の自発性と、政府の政策、企業の経済民主主義的経営が有機的に関連づけられて、産業構造を転換させている。そしてその原動力は、地域社会の構成員によるグラスルーツの運動にあるのが大きな特徴である。

中村は、自分さえよければいいとか何でもお金で決済したらいいという行き過ぎた個人主義や歪んだ拝金主義などが原因で、日本の社会の中で失われつつあるさまざまな「信頼」を、ブレストのアイデアを活用して、地域レベルで再構築するきっかけができないものかと必死に考えていた。ここで生まれ、ここで育った中村にとっては、次第に活力をなくしていく街の将来に大きな危機感を抱いていたのである。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数1,007 カテゴリ日記 コメント0 投稿日時2014/05/27 03:35
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