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2014年06月28日(土) 

第二十六話「進化するおたがいさま食堂」

マコトたちの発想の原点は、東京・阿佐ヶ谷の川端商店街で始まった「おたがいさま食堂」にあった。空き店舗対策として駅から1分の好立地にオープンした多目的レンタルキッチンスタジオが核となり、周辺の商店主や従業員、近所に住む地域の人達が皆で集まり、夕ご飯を作って一緒に食べるというイベント。商店街の活性化と地域密着を推進してゆこうとする取り組みだった。「おたがいさま食堂」も、多世代的今風下宿の新しいライフスタイル「コレクティブハウス」から発想が深まったもの。食事を当番制にし皆が皆の食事を作り合うという発想が基となっている。作る人と食べる人が一体なのが特徴で、回を重ねるとともに顔見知りが増え仲間意識が芽生え、さらに地域への愛が深まるという効果が認められる。

マコトたちは、都会仕様のこの取り組みに「プロの参加による効果」「地産地消の推進」「伝統野菜の再評価」「家庭の食文化の向上」「地域との連携」「新旧住民のコミュニケーションの活性」「食による地域の絆の醸成」などの要素を加えて、地元らしさを取り入れた新しいプログラムに進化させようと考えていた。この取り組みは、スタート時点では小さな手作りの試行だったが、のちに他の地域にまで広く伝搬する地域づくりのベストプラクティスとして拡大していく。

クーポン販売に先立ち、マコトと政夫は仲の良い若手のオーナーシェフ仲間にこの企画の相談に回った。彼らにとっては週一回の休日は心身ともにリフレッシュするために非常に大切な機会だった。また、利益どころか手間賃も出ないようなプランに、総じて反応は芳しくなかった。また、調理のコツを教えることによって、参加者が同じ料理を自宅でつくりお店に来なくなったり、あちこちの店に情報が漏れてしまって自店の特徴がなくなってしまうのではという危惧もささやかれた。

これに対してマコトは、参加店がリレーするので提供する休日は1日だけであり個々の負担が小さいこと、この取り組みだけでは儲からないが参加者との師弟関係ができ来店機会や宣伝効果が大いに期待できること、すべてのノウハウを教えるわけではなく家庭の料理に役立つポイントを伝授できればよいこと、(参加者には伝えないが)参加者同士がひとつになって学びあうことで今後地域の食文化を牽引する人材が育ちさまざまなグループの橋渡し役になってくれることが期待できるなど、企画のメリットを辛抱強く説いた。結果、「リーノ」「シェ・マエサト」にイタリアンレストラン仲間の「アントン」、中華料理の「英洋軒」という理解者を得てクーポン発行にこぎ着けた。

「んばさん、もう火を落としてもいいの?」とずっとビデオを回している高橋明子(46)が岩本深都里(57)に訊ねた。高橋は「住民ディレクター」という地域リーダーのひとりで、この取り組みの様子をビデオ編集して、地域づくり人のネットワークである「八百万SNS」を使って全国に拡げようと考えていた。「マコトさんが、アルデンテで茹でるなら、最初の1分は沸騰したお湯に強火でかけて、その後は火を落として、パッケージの書いてある時間(太麺1.8mmならば11分間)蓋を閉めて待ってるんだと教えてもらったの。そうそう、お湯にオイルを少し落としておくと、パスタの絡まりも少なくなるなんだって」。岩本が茹でたアルデンテのパスタは、大きな身体の三上が作る繊細なミートソースが乗ったボロネーゼとして並べられ、参加者全員から絶賛の評価を受けた。

「カンキチさん、あのミートソースの作り方を教えてくれない?」。「カンキチ」や「んば」とはハンドルネームと言われるSNSでの愛称である。出会うのはこの日でまだ2回目ながら、それからはいつもSNSでやりとりしているので、ほぼ全員が本名ではなくハンドルネームを使いあっていた。「トマトはカンヅメから使う、材料費をあまりけちらない、そして大きな鍋で一度にたくさん作っちゃうことかな」と、三上は両手を抱えるようにして寸胴鍋のサイズを再現した。「いっぱい作っていっぱい食べるから大きく育つんですよね~♪」。津川のひとことで全員がどっと湧いた。三上は「三ヶ月くらいは冷凍保存しても味が変わらないので、いまの我が家の冷凍室はミートソースで支配されています♪」と市役所職員らしく冷静に応え、次回のアントンでは、冷凍室のミートソースを参加者に配ることを約束した。企画の最終日はコミュニティセンターの調理室を会場に各自家族を呼んで集大成のフルコース料理を振る舞うのだが、その大食事会のパスタ担当はカンキチと決まった。

この取り組みは、最後までひとりの欠席もなく全員が楽しく企画を終えることが出来た。ラストの大食事会では、世話になった漁協や農家、地産地消や食のグループなどの関係者が、さまざまな役割を自発的に分担し調理を手伝い、その盛り上がりは大変なものだった。当日は、地元の新聞社やキー局のニュース取材が入るほどの注目ぶりだった。当然のなりゆきで参加者は自主的な企画の継続を求め、オーナーシェフたちもできる限りの協力を約束した。その後参加者たちはコミセンの調理室を拠点に、マコトや政夫たちが持っていたネットワークを、「食」をテーマとする多くの地元人たちを橋渡しする結節点の役割を担うようになっていった。いつしか彼女たちは、だれからともなく「地産地消グルメ十勇士」と呼ばれるようになった。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数717 カテゴリ日記 コメント0 投稿日時2014/06/28 05:23
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