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2015年04月20日(月) 
2006年09月05日

 ネットワーク理論の中に、ケヴィン・ベーコン・ゲームという愉快な実験があります。ハリウッドの映画俳優・ベーコンと任意の俳優との共演関係の距離を数字にしたもの。ベーコン自身はベーコン数0、共演したら1、共演した人と共演したら2、というように増えていきます。こんな計算で、インターネット・ムービー・データベースに登録されている俳優リストから得られたベーコン数の平均はなんと2.946。ハリウッドの俳優たちは、僅か平均3人で接続されていたのです。

 ベーコンは、出演映画の数が少し多いくらいで特別な俳優ではありませんし、ハリウッドの中心で力を持っていたわけでもありません。「3人の隔たり」はベーコンじゃなくて、どの俳優においても同様の結果がでることでしょう。ベーコン数と同じように、数学の世界で数多くの共著論文を発表したポール・エルデシュを対象としたエルディシュ数でもベーコン数と似た結果がでます。ある特定の要素で接続しあった人たちのネットワークは、一般的な人のつながりと比較すると遥かにサイズが小さい(身近にまとまっている)ということがいえます。

 まず「人が集まれば何かが起こる」的にSNSを運営するのもひとつの方法です。しかし、SNSはまだまだ一般的には認知度の低いサービスなので、乱立してそれぞれがユーザーを囲い込み始めると、自律して活性化するのに十分なユーザー数を確保するためには、多大な労力や長い時間が必要とされます。一般的に、SNSがユーザー同士の情報交換によって活性化するには、数万人から数十万人の登録数が必要であると考えられています。つまり、SNSをミクシィのようなビジネスモデルにするのは、想像以上に大変なことなのです。

 多くのSNSでは、SNS自体の機能を特化させたり、ある特定のユーザー層をターゲットとした運営を行っていました。地域SNSと呼ばれるサイトも、地理的な要素でこの「より狭い世界」をつくり、つながりの効率化を図ってきたといえます。逆に、このような方法をとらなかったSNSは、その多くが早期に淘汰の波にさらされて、いかに機能的にすぐれていても、消滅の憂き目にあってきたのです。


「ケヴィン・ベーコン・ゲーム」

 1994年1月、ジョン・スチュワート・ショーという有名トーク番組で、オールブライト・カレッジの三人の大学生がケヴィン・ベーコン(Kaven Bacon)*23と共演し、名前を挙げられた俳優をみんなベーコンにつないでみせるという妙技で視聴者を引きつけた。彼らは、多くの映画に出演しているベーコンは、数多くの俳優たちと共演していることから、ハリウッドの俳優は誰もが平均して二つか三つのリンクでベーコンとつながる点に気づいたのである。

 ヴァージニア大学の学生だったグレン・ワットソンとブレット・ジェイデンは、二人の俳優の距離を決定するというこの問題はコンピュータ科学のプロジェクトになることに気づき、インターネット・ムービー・データベース(IMDb.com)*24のデータを使ってプログラムを書いた。そしてこれを「ベーコンの神託(The Oracle of Bacon)」*25と名付けてサイトを立ち上げた。ここでは二人の俳優の名前を打ち込めば、その二人をつなぐ最短距離が示され、その経路となる俳優と映画がリストアップされ、ベーコン・ゲームの家元的存在となっている。(バラバシ,2002)

 ベーコン本人をベーコン数0として、ベーコンと直接共演したことのある俳優は1となる。その俳優と共演していると2になり、遠くなる毎にベーコン数は1ずつ増える。インターネット・ムービー・データベースに登録されている俳優リストから得られたベーコン数の分布は、1が1,806人、2が145,024人、3が395,126人、4が95,497人、5が7,451人、6が933人、7が106人、8が1人となっている*26。これによりベーコン数の平均*27は、2.946となり「六次の隔たり」を越えて、ほぼ3ステップで接続されていることとなる。

 ベーコンは特別な俳優ではなく、ハリウッドの中心にいるわけでもない。ハリウッドの俳優であればだれでも、その役割を担うことが可能だ*28。ベーコン・ゲームが成り立つのは、ハリウッドの俳優のネットワークが大変密に張り巡らされた鎖であるからである。ノードは俳優で、出演した映画がリンクとなって共演した俳優たちをつなぐ。従って複数の映画に出演すればリンクはすみやかに増加する。ハリウッドの俳優は平均27のリンクを持っており、これはネットワークが分離されずにひとつにまとまるのに必要な1という閾値をはるかに上回っている。このように密度の濃いネットワークでは「六次の隔たり」は容易に達成される。またリンク数が1桁の俳優が41%もいるのに対して、ごく少数の俳優は十をはるかに越えるリンクを持っている。すなわちこのネットワークでは平均が通用しておらず、多くのリンクを持つものがハブとして機能し、他の俳優たちをベーコンに近づけるのに役立っている。

 ベーコン数と同じ考え方で、ポール・エルデシュとの共著論文の距離を示す「エルデシュ数」という概念がある。エルデシュは生涯、1500編あまりの論文を発表しているが、そのうち507編は共著である。エルデシュと共著論文をもつ者はエルデシュ数1。エルデシュの共著者と共著論文をもつ者はエルデシュ数2と続く*29。科学界は高度に相互連結されたネットワークで、科学者たちは共著論文によって強い絆でリンクされており、ネットワークサイズも小さい。(バラバシ,2002)

 2000年、ルーマニア出身の物理学者ゾルタン・ネーダ、修士課程の院生だったエルゼーベト・ラヴァス、ハンガリー・アカデミーの計量社会学者アンドラーシュ・シューベルト、バラバシらは、1991年から1998年にかけて発表されたすべての論文によって数学者のリンクを調査し、20万件の共著で結ばれた70,975人のネットワークを組み立てた。数学者たちがランダムに共著関係を選んだと仮定した場合のエルデシュ・レーニイ理論から予測される結果より調査したクラスタリング係数は1万倍も大きく、数学者のネットワークはきわめて高度にクラスターされていた。
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*23 B級映画から大作まで、1,472人の俳優と共演している。主な出演作に、アニマル・ハウス(1978)、13日の金曜日(1980)、ダイナー(1982)、フットルース(1984)、トレマーズ(1990)、フラットライナーズ(1990)、ヒーセッド・シーセッド(1991)、JFK(1991)、ア・フュー・グッドメン(1992)、激流(1994)、アポロ13(1995)、スリーパーズ(1996)
*24 俳優と映画についての詳細な情報を提供している会社。http://www.imdb.com/
*25 http://www.cs.virginia.edu/oracle/center.html
*26 2004年5月29日調べ。
*27 平均値の計算方法は、((0*1)+(1*1806)+(2*145024)+(3*395126)+(4*95497)+(5*7451)+(6*933)+(7*106)+(8*13)) / (1+1806+145024+395126+95497+7451+933+106+13)
= 1902919 / 645957
= 2.946
*28 同様に計算したシェーン・コネリーとの関係を示すコネリー数の平均は、2.731である。
*29 オークランド大学の数学教授ジェリー・グロスマンは、数学者のエルデシュ数をリストしたサイトを運営しており、論文を発表した数学者なら自分のエルデシュ数を知ることができる。

閲覧数917 カテゴリ日記 コメント2 投稿日時2015/04/20 09:31
公開範囲外部公開
コメント(2)
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  • 2015/04/20 18:08
    勉強になりました、ありがとうございました!なぜか、袖すり合うも他生の縁、という言葉思い浮かべました。
    次項有
  • 2015/04/20 18:34
    ベッガさん
    何だか自分の頭の悪さをこれでもか・これでもかと認識させられているようで・・・「私もよく分かんない」という人がどんどん出てきてくれると嬉しいかも、と情けない私です。
    次項有
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