「折れず、曲がらず、良く斬れる」という相矛盾する要素を非常に高い次元で同時に実現させるとともに、優れた武器としてだけでなく美しい芸術品として代々継いで、現代に匠の技を伝承する日本刀の製作。ありがたいことに、古来から工夫を重ねて鉄を鍛える神聖な鍛刀場を見せて頂くことができました。
招いて下さったのは、佐用町の高見太郎國一(本名高見一良)さん。若手刀工のリーダー的存在で、その技術や取り組みが高く評価され、数々のコンクールで入賞している期待の匠です。テレビなどではみたことがあっても、実際に目の前で作業されている様子を拝見していると、その気迫いっぱいの張り詰めた空気の中では見ているものの気持ちも清らかになるような厳かな雰囲気でした。
高見さんは、高校二年生のときに偶然食卓の上にあったお父さんの刀剣図鑑を見て、日本刀の美に一目でひかれたそうです。その後、人間国宝宮入昭平門下で相州伝を極め、奈良県東吉野村平野に鍛刀場を開いた河内國平氏(14代刀匠河内守國助次男)師事、刀工の道を歩むこととなります。当時、弟子をとっていなかった國平氏の下へ、三度懇願しても断られ四度目に弟子入りを許されたという逸話は、高見さんの一本気な性格をそのまま表しています。
日本刀の原材料となる鋼の製法、選定、刀剣の鍛錬は、今日では鉄材を再還元して刀剣用に供する鋼を造る「卸鉄(おろしがね)」や自家製鉄した鋼を用いる刀工もいますが、高見さんは仲間の若手刀工らとともに、たたら吹きによる玉鋼を機軸に、製鉄、作刀の技術を磨いています。かつてはほとんどの刃物に用いられた玉鋼ですが、今では精錬はヤスキハガネの有名な日立金属が受託で行い日本美術刀剣保存協会が供給しているだけで、刀匠以外には販売されず、値段はとても高いそうです。
日本刀ができあがるまでには、驚くほど多くの行程があります。まず質の高い鋼の作成する「たたら吹き」「水減し」「積沸かし」、そして「鍛錬(下鍛え)」。この日、見学させてもらったのが、この工程でした。鍛錬は、赤熱したブロックを鎚(つち)で叩き伸ばしては中央に折り目を入れて折り重ねる「折り返し鍛練」を縦横方向で繰り返し行います。ちなみに刀匠(横座)と弟子(先手)が交互に刀身を鎚で叩いていく「向こう槌」が「相槌を打つ」という言葉の語源となっています。相づちは自分で鋼をたたかない..なるほどいい勉強になりました(笑)。
このあとも、鋼を組合せる工程の「積沸かし」「鍛錬(上鍛え)」「鍛接と沸延べ」などを経て、仕上げである「鍛冶押し」「茎仕立て」「樋掻き」「下地研」「銘切り」「仕上研」と進みます。高見さんは、まだ自分の作品の完成度を上げなくてはならないという気持ちから弟子を取っていないので、この工程をひとりでこなしています。一振の日本刀ができあがるまでに、半年から一年かかるそうです。
今回の見学で、日本刀の伝統美と精神を受け継ぎ広めたいという高見さんの情熱に強くひかれました。また、刀匠という以前に、人間としての高見さんの素晴らしさに共感しました。できるだけ多くの方々が、日本刀を通じて「日本の伝統美(こころ)」を知るという機会に出会って頂けたらと思います。