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2017年03月09日(木) 
さっき夕方の7時過ぎ何かを取りに上がってきた夫(通常は9時過ぎまで事務所にいる)が、いいニュースだよ!と言うので、何かと思えば裁判に勝ったそうな。

裁判で勝ち負けなんて、日本ではあまり聞かないと思うが、こちらでは日常茶飯事、とは言わぬまでも普段の生活に結構散らばっている。

義兄・義姉は自分たちの所有地でハンターが猪や鹿を撃つのを止めさせたくて、これも裁判に持ち込んだが負けた。この国では狩猟権というのが結構保護されているのだ。動物愛護が聞いてあきれる。(ただし、勝ったハンターにはいくらか条件が課されたらしい。)

今回夫が勝ったという裁判では、夫が被告だった。原告は近所のトルコ人、正確にはクルド人の一家で、かなり粗暴な人々である。

一家は道路を隔てて工場前のオンボロ集合住宅に住んでいる。満杯なら8、9家族が住めるアパートだが、今は半分くらいしか埋まっていない。

所有者は今住んでいる兄弟の親で、トルコとドイツを往復しているこの父親とその妻および二人の息子の家族が住んでおり、兄弟は相次ぐ暴力沙汰でしょっちゅう失業しているので、収入は限られる。

他に独身の生活保護者がいる。兄弟の一人は多分近い将来生活保護受給者になると思われる。親がアパートもっているのに?

この国では貧しい親を子供が援助する義務はあっても、成人したグータラ息子を親が養う義務はない。でないと、みんな怖くて子供を持たなくなるからだ。(子供には、親を持たないという選択はできない。)

それでクルド人の親は、このアパートを優先的に生活保護受給者に貸してきた。生活保護受給者の家賃・光熱費は現物支給で、自治体が毎月家賃を払ってくれるから、取りっぱぐれがない。

アパートはそうとう老朽化しており、資産価値は土地のみ、それもせいぜい2百万円くらいだろう。だから借りる人もほとんどなくなった。

さて、裁判の中身だが、もう10年以上前からクルド人一家は夫の工場からの騒音や振動に文句を言っていた。

(ちなみにこの一族の次男は、ジハド予備軍としてときどきアフガニスタンに軍事訓練に出かける。それで夫は彼らのことを「タリバン」と呼んでいる。私も便宜上、以下「タリバン」とする。)

その苦情がなくても環境への配慮は必要だから、諸改善で騒音レベルは相当低くなり、一番の論争点である振動についても、鋳物の砂落としやショット・ブラストの設備を最新化して、住人には迷惑がかからないようになっている。

しかし「タリバン」は、それでも日常生活に支障があるとして4年ほど前に訴訟を起こした。上述の通りこの国で裁判沙汰はしょっちゅうだから、たいていの人が訴訟保険をかけている。「タリバン」一家もその保険で夫を訴えたのだった。

裁判での立証のため、夫は何度も専門家を雇って騒音・振動のレベルを測定させた。最も重要なのは「タリバン」一家の住居内での測定だが、ここで「タリバン」が専門家の立ち入りを拒否し、そのことが既に初期のころから原告の彼らを不利にしていた。

それで「タリバン」は同じく工場の近くに住む何世帯かに共同で訴えることを提案し、いずれも「別に支障は感じない」として拒まれている。

そのあと、これらの家の郵便箱に犬の糞が投げ込まれるなどの嫌がらせが相次ぐ。目撃者によると、「タリバン」が当時未成年だった子供たちにやらせていたらしい。捕まっても見逃してもらえるからだ。

裁判は結構長引き、そのことは悪いことではないと私は思っていた。勝って賠償金をもらえるという望みがわずかでもあれば、「タリバン」も工場を爆破したり、夫や工場長の殺傷を企てたりはしないだろうから。

夫はしょっちゅう弁護士とスイス国境に近い裁判所に出かけねばならず、それが業腹だったらしい。最初の弁護士が事なかれ主義の腑抜けだったので首にして、新しい弁護士は結構頑張ってくれた。

この国では「弱者」と見られた方が勝ちで、裁判官も「移民」「貧乏」となるとそちらのえこ贔屓に傾き、うちのような「資本家」には敵愾心をあらわにすることが稀ではない。

それが「社会民主主義」の原理らしく、毎年多額の血税を払っている企業主よりも、生活保護受給者の方が文字通り「保護」される。だから多少費用が掛かっても辣腕の弁護士が必要なのだ。

弁護士の腕もあるが、何より、工場操業によって日々の暮らしが乱され、住居の構造も損傷を受けたという証拠がない以上はただの言いがかりでしかなく、いくら弱者好きの裁判官といえども、要求されている3千万円だか4千万円の賠償金を支払えと夫に命じることはできない。

町のトルコ人仲間に「タリバン」が語ったところによると、夫から数千万円の賠償金をせしめたら、それを資金にトルコの田舎に帰って商売を始める計画だったそうだ。

夫は今日裁判に勝った知らせを弁護士から電話で聞いて喜んでいるが、私は不安である。失うものを持たない絶望した人間は恐ろしい。これでカネを手にする希望が潰えたとなると、何をしでかすか分からない。

上告はないのかと聞くと、判決が下りたのは州の裁判所で、それが不満なら上級州裁判所に訴訟を持ち込むことになるが、その場合は訴訟保険がきかず、裁判費用は自腹になる。「タリバン」にその金はない。

工場の周囲は夜間も灯りがしっかり点って、破壊行為はむずかしい。しかし防犯カメラは入り口の一か所にしかない。

それで、防犯カメラを数箇所に設置し、セキュリテイ対策を強化するよう夫に頼んだ。

ヴァンダリズム(破壊行為)に対する保険は掛けてあるというが、当方が万全の策を講じてないと、これも裁判になって保証額が支払われないか大幅に減らされる恐れがあるからだ。

また、爆破等で操業不可能となった場合の従業員の賃金支払いについても保険を掛けているが、私が最も案じるのは、夫が(下手すると私も)殺されたり障害者にされたりすることである。

これは大げさでも何でもなく、そういう例はいくらでも転がっていて、加害者はせいぜい10年程度の禁固刑、それも刑務所が満員というので7年くらいで出所する。

移民に反対したり異文化を嫌ったりすると、今この国では「極右」とか「ナチ」とか非難されるが、われわれのような一般市民がこういう現実の脅威に曝されて暮らしていることを政府はどう思っているのだろうか。

自分や家族の身は常に護衛されている政治家や、法律書と世論を判断の根拠とする法曹界の人々に、日々の暮らしを脅かされている市民の状況を理解してくれというのは、所詮ない物ねだりでしかない。

私は今の危惧が将来現実のものとなった時、自分たちを守ってくれなかった国家制度を公式に批判するための一つの証拠として、これを書いている。

私に命があればの話だが。

閲覧数604 カテゴリ日記 コメント12 投稿日時2017/03/09 06:16
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コメント(12)
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  • 2017/03/09 17:56
    鉛筆ベッガさん
    > くちべにがいさん
    国家が守ってくれないのはその通りなんですが、具体的にはゴミや駐車問題で迷惑をかけられた住民がいて、それを役場や警察に訴えてもとり合ってくれないのです。

    これは、このクルド人一家を敵にすると、自分の家族にも害が及ぶという恐れのためで、全く何のための警察だか、その臆病さには呆れます。

    狩猟については、ドイツ語圏(スイス、オーストリアを含む)は非常に寛容なのです。内陸で山国のオーストリアなどは特に中世以前からの「文化」の一部だというのですが、それなら日本がイルカやクジラを捕ることも文化ですよね。

    ドイツ人の狩猟好きは悪名高く、自国で物足りなくなるとカナダで熊を撃ち殺し、ナントカいう種類の熊がカナダにほとんどいなくなったのはドイツ人のせいだそうな。環境保護・動物愛護を謳う政治家も、票が大事だから「他国にまで迷惑をかけるな」とは決していいません。
    次項有
  • 2017/03/09 11:02
    zosanさん
    何でも裁判と言うのはアメリカのお家芸かと思っていたのですが、ドイツもそうだったとは驚きです。
    裁判に勝っても身の安全は自分で守らないと、国も裁判所も何もしてくれませんから怖いですね、ことが怒らないと警察も行政も何もできないと言う点は日本もドイツも同じだと思いますし。。。
    次項有
  • 2017/03/09 18:14
    鉛筆ベッガさん
    > zosanさん
    前にも書いたと思いますが、昨今は弁護士があまっているんです。これは、今の若者が理工系を嫌い、「かっこいい」法学部に進むことが一つの原因で、利口な人達はそこから政治家への道を選びますが、そういう人たちは限られている。

    それで国ができるだけ法律をややこしくして(ドイツの法律の多さと複雑さは世界で「無比」です)、弁護士の需要を増やしているのです。例えば、離婚の場合に、当人同士が決めて離婚届けを出すというのでは、認められません。必ず弁護士を雇うことが義務付けられています。

    事が起きないと動かない、というより、事が起きてもだれも責任とる必要がないのです。

    フライブルク大学の女学生が17歳の難民に暴行され殺されたとき、犯人が難民と分かる前には、彼女が生前に難民の支援をしていたため、両親はその「遺志」を汲んで葬儀参列者から寄付を募りました。

    娘が難民に殺されたと分かって、父親が「メルケルが首相でなかったら、娘は死なずにすんだ」と言ったという話がネットで流れましたが、すぐに消されました。むろん、政府の指示です。

    その後の調べで、犯人は17歳でなく22歳のアフガニスタン人と判明。裁判が始まりますが、情状酌量で大した罪にはならないでしょう。貧しい国からの、無教育で気の毒な弱者だから。
    次項有
  • 2017/03/09 15:12
    お住いの周辺やお仕事の様子は少しばかり想像されましたが、

    > ジハド予備軍 …アフガニスタン…軍事訓練…「タリバン」…

    などと特別の地域のことかと思っていた言葉がゴロゴロと出てくるのですね。
    何がいいのかはわかりませんが、防犯カメラなどもう少し増設必要間かもですね。
    次項有
  • 2017/03/09 18:31
    鉛筆ベッガさん
    > えーさんさん
    中東は日本からは遠い国で、そこで紛争が起きても日本人の日常には影響がありません。また、日本人が宗教に対して大らかな(いい加減な)国民であることも、中東との対立がない理由です。

    しかし、多くのイスラム教国で、男性の所有物である女性は父・兄弟・夫のいずれかと一緒でないと旅行できないこと、入国書類に「無宗教」と書くと入国できないこと等は知っていた方がいいでしょう。

    中東の特にアフガニスタンの山岳地帯に軍事訓練に定期的に行っているフランス/ドイツ/オランダ/ベルギー国籍のイスラム教徒は非常に多いです。中東出身者と並んで、イスラムに改宗した白人やその妻もいます。(女は結構役に立つのです。)

    彼らの出入国を止める手立てがないのが不思議ですが、憲法で定めた自由を守るためというのが野放しの理由のようです。

    今シリアとイラクでISの劣勢が伝えられており、そのため欧州各地に「帰国」するイスラム兵士が今後増えることに、市民は不安を募らせています。
    次項有
  • 2017/03/10 23:08
     このエントリ、後でもう一回読みます。なにせ今、酔っ払ってるもので...

     実はアジアフリークのわたしが欧州旅行したきっかけは、ベルリンのスクォッターなのです。家賃を高値に引っ張ろうとする悪徳家主 vs ヨーロッパ随一のフリーダム都市ベルリン。果たしてその結末は?みたいな興味でした。当時のドイツはパンクロック風のお兄ちゃんお姉ちゃんがわんさかいて、耳や鼻に安全ピン刺してて、深夜のフランクフルトとか殺されるかと思った。それでも今より少し若かったわたしは年代的に萌えました。乗っ取れ乗っ取れ!、占拠しちゃえ!と思ってました。

     とにかく金がなかったわたしは毎晩、トルコ人街でホットドッグ&ビールの日々でした。

     経験が人を左右しますよね。主義主張を経験まで引き戻すと案外と理解できる。そこが面白いと思ってます。
    次項有
  • 2017/03/11 01:13
    鉛筆ベッガさん
    過去の経験・現在の立場。そこから出てくるのが、「あなたには分からない」というセリフ。

    パンクの兄ちゃんにあったら、その刹那主義と無責任に私は怒ると思います。ただ、私自身がふわふわと訳の分からぬ夢を見て、怠惰な青春期を送った時期があり、加えて、諸般の事情で自分を無価値と思い自虐的になっていたこともあるので、その種の和い女性については理解できる。

    でも今そういう人達に経験を伝えられるかというと、それは無理。詰まるところ自分で出口を見つけるしかない、というのが結論です。

    このブログ、今日エピローグを書きます。
    次項有
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