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2018年08月01日(水) 
ちょっと古い話題、といって旧聞に属すると表現するにはまだまだくすぶっている話として、アメリカ大使館のエルサレムへの移転がある。

この件が報道されたとき、「悪漢」トランプがまたとんでもないことを、と思ったのだが、話を聞いてみると彼が全面的に悪いともいえず、多少の理はある。

エルサレムをイスラエルの首都と見なすのは少なくともアメリカでは違法でもなんでもなく、そして大使館は首都に置くのが常識なので1995年にアメリカ議会で「エルサレム大使館法」が成立したものの、そこは解決の見通しがたたない中東紛争や国際世論もあり、実施については大統領が半年ごとに移転か延期かを決定することになっていた。

クリントンからオバマまで、現実主義というか便宜主義というか、いっそ日和見主義というべきか、「延期」が選ばれた。

それをトランプが「延期はしない、移転する」と言明したのは越権行為ではない。空気を読まないことは別に違反ではないから。

アメリカの保守的なキリスト教徒の票が欲しかったためとか、ユダヤ人ロビーの圧力とか、いろいろ言われており、それは大部分事実だろうが、そもそも米国は今から23年前に(民主党政権下で)なんでそんな法律を制定したのだろう。

歴代大統領が永続的に「延期」を繰り返すのであれば法律の意味はない。この法律に無理があるならば平和主義者オバマなどがそれを廃止すればよかったのに、何もしないで延期、それも16回。国外でも国内でも誰にも嫌われたくないからって、これ情けなくない?

嫌われてもへっちゃら、というトランプの方がまだ男気があるってものだ。個人的にはこのオッサンにはゲゲ、シッシとなるけど、それと政治は別の話。

このエルサレム大使館移転問題よりもさらにトランプに分があると思うのは、NATOの軍事費負担をめぐるドイツの約束不履行への非難である。

このNATO(北大西洋条約機構)はもともとソ連の脅威から欧州を守る目的で設立されたものなのでそのソ連が崩壊したあとは不要になるかと思いきや、1990年以降むしろ強化されてきた。

その理由として、ロシアを仮想敵国としているわけではなく、欧州内とその周囲であり得る国際紛争を解決する役目を担っている、と欧米は主張し、実際、旧ユーゴ内での民族争いに対処するためNATO軍により爆撃が実施されたりした。

だから存在理由はちゃんとあって、何より加盟国が年々増えていること自体その必要性を欧州が認めている証拠である。

最強の軍事国は米国で指導力もあるから軍事費の負担が最大であるのもやむをえず、当の米国がそれを承知している。

だからってどの国もただ乗りはダメだぜ、と米国はクギをさしており、ウクライナ分裂やロシアによるクリミア占拠もあって、2014年に全加盟国がそのGDPの2%以上を負担することが約束された。オバマとメルケルは万面の笑みで握手。

ところが欧州で最もリッチな国であるドイツが依然として1.18%と、フランスの1.8%よりはるかに少ない率でごまかしている。チェコ、ハンガリー、イタリアなどが2%を切っているのは「おカネがないから」と言うが、借金で首の回らぬギリシアですら2.46%でっせ。

ドイツが負担額増を渋っている理由は国内の世論にあり、中央議会で目下メルケルを一番支持してくれている「緑の党」が軍事費増強となるとヒステリー発作を起こすので、自党の仲間よりも緑のお友達を失いたくないメルケル首相の煮え切らぬ姿勢が原因なのだ。

おかげで美人の防衛大臣は国際舞台でえらく苦労している。(その苦労を察してか他の欧州国も米国も彼女には優しい。それもメルケルは気に入らないらしい。)

ともかく4年前にオバマ政権の米国に「2%でいいよ」と約束した以上、トランプがそれを守らぬドイツに怒るのも無理からぬ話である。

客観的に見て、トランプをヒールに仕立てあげているメルケルの方が悪質だ。

しかしここ何年か、約束反故というのは欧州文化、というよりEU文化の重要な構成要素になりつつある。

例えばダブリン規約というのがある。どんな内容かというと、

「この規約に従いEU加盟国と非加盟国(ノルウェーやアイスランド等)のうち、難民が最初に入った国で申請をしなくてはならない。その理由は可能な限り早くアサイラム手続きを国に行わせることと二重申請を防ぐことにある。難民が申請手続きをした後に別の国に移動した場合その難民は手続きをしている国に送り返される」

とウィキで説明されている。

(アサイラム手続きって、なぜここで一般的ではない英語を使うのか理解できない。難民登録という日本語で何の支障もないと思うが。)

ところが難民にしてみれば、借金まみれで難民の面倒を見る余裕などない南欧よりも北のドイツに行って、衣食住全部タダ、語学の研修費もタダ、お小遣いに10万円近くもらえる暮らしの方がいいに決まっている。

それで南国ギリシア/イタリアをあとにして北上する人が急増し、これではドイツがどれほど黒字財政でも早晩潰れる、というので、ダブリン規約に従って南で登録済みあるいは申請中の難民を送り返そうという動きが出た。

もちろん左派は大反対。非人道的行為だという。規約に従うことが非人道的と言うのが全く分からない。メルケル政権は例によって国民の顔色をうかがい何もしない。

このため(極)右派を支持する声が強まり、メルケルの政党はまたもや支持率を減らしている。しかしダブリン規約を強行すれば緑の党と左翼党が噛みつき、そしてこれが一番問題なのだが、メルケルはその難民歓迎策が偽善だったと認めることになる。

この規約そのものがギリシア、イタリアなど海から難民が殺到する南の国に不公平という声もあるが、そんならなぜ決めた、といいたくなる。

誰も守らず、守ろうとすると不公平とか非人道的と言う非難を浴びる規約をなぜ長時間かけてアイルランドの町で成立させたのか。

政治家たちはダブリンで無料宿泊してタダ飯食って、いえ召しあがって、帰ってきただけではないか。

決めた以上はそれに従うべきだろう。不公平だというなら改正すればいいのに一向にその兆しがないのは代替案が見つからないためだ。

ならば、改定されるまでは不満でも現行法に従う。それが鉄則である。でないと法の意味がない。

EUが決めて従わないもう一つの典型例はユーロ導入に際して決められたマーストリヒト基準(収斂基準とも)である。

その中身は簡単明瞭で、

「単年度の政府の赤字額(新規国債発行額)が国内総生産 (GDP) の3%を超えてはならないというもの」

なので、議論の余地はないはずだが、これをどれだけ厳密に守るべきかについて解釈が分かれるという。3%は3%、どうして解釈が分かれるの?

私には経済学の知識は(も)皆無だが、それでも、共同通貨を導入した以上は各国が国家財政に責任をもってくれないと通貨同盟がつぶれる、という理屈くらいは分かる。

ところがその発足以来この3%ルールを守って来た国はほとんどないのですね。

ドイツも90年代半ばから10年余りは苦しい時代が続いたのでこれを守れず、フランスも「だったらうちだって」と喜んで真似し、そうなると他の欧州国を律するすべはなく野放し。

その結果が2010年に病巣から膿が出始めたギリシアのユーロ危機であり、スペイン/ポルトガルの財政破綻であり、現在のイタリアの実質破産である。

どの国も3%なんて数字を守る気はまるでなく、そのことを知っているEU本部も見て見ぬふり。

この場合も「だったらなんで決めたのよ!」である。私は大半の欧州市民がそう叫ばないことが不思議でならない。

彼らの反応はただ一つ、欧州議会議員の選挙に行かないことでEU無視を決め込むというささやかな抵抗なのだが、皮肉なことに反EUの連中は意気込んで投票にでかけるため、EU議会で反EU議員が増えるというおかしな事態になっている。

来年はその欧州議会選挙の年で、どの国の政権も先が読めず戦々恐々としている。フン、無責任の罰が当たったんだわ。

写真はフォン・デア・ライエン防衛大臣。医学博士でもあり7人の子持ち。2枚目の写真はミュンヘン安全保障会議にてマティス米国防長官と。

閲覧数325 カテゴリ日記 コメント2 投稿日時2018/08/01 01:24
公開範囲外部公開
コメント(2)
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  • 2018/08/01 05:03
    > 歴代大統領が永続的に「延期」を繰り返すのであれば法律の意味はない。

     エルサレム大使館法(1995)は上下議会とも圧倒的多数で議決、が、クリントン&オバマはスルー。トランプになって去年6月にもう一回議会にかけて全会一致。しかもこれ、トランプは一回拒否権を発動してる。その上での今回の措置。

     なので、オバマの尻拭いであることは否めません。

    > このNATO(北大西洋条約機構)はもともとソ連の脅威から欧州を守る目的で設立されたもの

     それと、西側自身がいかにドイツを抑制するか、ですね。英・仏が米に泣きついてNATO体制が始まった。この辺は日米安保を語る際に欠落してる論点だったり。NATOが望めない極東アジアで如何に極東アジア版NATOを実現するかと。米国をハブとする日本・フィリピン・韓国ってのは、そういうことです。

     欧州でトルコが、極東アジアで韓国が、安全保障上フラフラしてるというのも偶然ではないのかもしれないです。

    > その結果が2010年に病巣から膿が出始めたギリシアのユーロ危機であり、スペイン/ポルトガルの財政破綻であり、現在のイタリアの実質破産である。

     これはやる前から分かり切ってたこと。たぶん、ドイツもフランスも破綻折り込み済みの確信犯だったと思います。

     国民国家ってのを哲学的でなく実務的に定義すると、「中央銀行と通貨圏を単位とするひとつながりの地域」です。で、EUは国民国家から中央銀行を剥奪した。金融政策ができないから、デフレorインフレという選択肢がなくなり、残るは超緊縮の生活破綻or財政破綻だけ。

    (東洋には、中央銀行持ってるにもかかわらず金融政策を否定し、超緊縮の生活破綻最高!とのたまう不思議な国民もいるのですが...)

     緊縮原理主義の人にしたらギリシャのインフレは無くなったし、いいことずくめなんじゃないですかね。原理主義的にはw

     日本への影響についていうと、アメリカもEUも中国も不安的で、有事の際の『円』頼みになりそう。何かのはずみで急激な円高になるでしょう。一触即発。
    次項有
  • 2018/08/01 17:05
    鉛筆ベッガさん
    > かーりーさん
    具体的なコメントありがとうございます、おかげでブログでは書ききれなかったことも追加できて、鬱憤が晴らせるわ。

    オバマとトランプの違いは第一にその言動のギャップにあります。オバマは美しい演説はするけど毅然とした行動はとらない。まあまあそう怒らずに、みんな仲良くしようよ。これがドイツ人に超受けたのが、わが目を信じられない思いでした。

    もちろんそれに納得している国民ばかりではなく、先日の新聞に「言葉でなく行動の方を見てみると、トランプはそれほどひどくはない」というコメントがあって、ちょっとホッとした。

    マクロンもオバマもメルケルの難民受け入れを称賛して、「メルケルは欧州の尊厳を守った」とか「人道を貫いた」とか宣ったけど、そんじゃ、あんたんちにもウチの難民を分けてあげよう、と言うと「ノン!」「ノー!」で、「尊厳」やら「人道」には一顧だになし。

    ユーロ危機が当然の帰結であることは既に共同通貨導入から10年もたたないうちに明白でした。2000年の時点で英米の経済専門家が「10年後には破綻する」と警告したのが事実となり、欧州大陸の国々は、それでは面子がたたないというので必死で見え透いた工作しまくって。

    マクロンが欧州の弱体化を嘆いてその再建・強化を目玉政策にしていますが、所詮ドイツの懐頼みじゃあ、説得力あるわけない。ドイツ人もSPDなどを除けばそこまでアホじゃないし。借金の共同保証人?冗談じゃないよ!

    ECBのドラギの任期が間もなく切れるので、後釜にドイツ中央銀行総裁でECB評議会のメンバーでもあるイェンス・ヴァイトマンの名が上がっているけど、この人、ドイツ人の税金を守ることに命をかけている保守派でメルケルの政策に批判的だから、肝心の同胞であるメルケルが彼のECB総裁就任を阻止すると思う。

    もちろんマクロンも、チパラスも、スペインとイタリアの新首相も。オランダとオーストリアは支持するでしょうが、分かっている北欧はユーロ圏じゃないしね(フィンランドを除き)。

    メルケルによる阻止といえば、彼女がNATO軍事費の負担をケチるばかりでなく国内でも軍備の老朽化を放ったらかしなのは、フォン・デア・ライエン防衛大臣イジメと私は見ています。

    彼女を次期NATO事務総長にという声があちこちで聞かれ(第一に、外国語といえばロシア語しか話せないメルケルと違って英語が非常に流暢なので、名前から分かる貴族の家系を差し引いても、NATOでの受けが抜群にいい)、メルケルとその取り巻き(顧問・側近は気持ちの悪い女ばかり)がそれを快く思っていない。

    フォン・デア・ライエンは今二期目ですけど、そもそも防衛大臣ってドイツでは非常に危険な職なんですよ。戦後の防衛大臣で4年乃至8年の任期をまともに終えられなかった人は結構多くて、中には愚かな女性スキャンダルが原因で追放されて人もいますけど、大体訳の分からない贈賄やら隠ぺいを取り沙汰されて辞任。CDUのユングみたいに防衛相時代に発生した問題が後で分かって、新しい大臣の地位を追われるという気の毒なケースも。

    天下の問題が女のやっかみや奸計に左右されるという事態は、異常としかいいようがありません。どの新聞もそれを指摘する勇気はないですけどね。

    ところで今日はスイスの建国記念日です。スイスのNZZに掲載された写真でそのことに気が付きました。
    次項有
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