京都は妖怪の町だ。妖怪商店街があったり、妖怪タクシーが走ったりしている。そんな京都に暮らす我が家にも小妖怪マルダが住みついている。今回はそのカイ談だが、怪しいの怪談ではなく、愉快の快談だ。
◆大将軍商店街について | 大将軍商店街振興組合 一条妖怪ストリート
（http）://kyoto-taisyogun.com/about-taisyogun/
◆京都妖怪タクシー | 興進タクシー株式会社
（http）://www.e-tabiji.jp/youkai.html
　
　他の妖怪が深夜に活動するのと違い、小妖怪マルダが出没するのは朝だ。朝になっても起きない妖怪なのだ。声を掛けて起こすと、返事する。ちゃんと会話になっている。しかし、起きない。起き上がって、顔を見せても、人間じゃない。魂が入っていないのだ。起きないから「マルダ」と命名した。マルダは「だるま」の反対。だるまは七転八起（しちてんはっき）、必ず起きる。その反対だから「マルダ」なのだ。

　その容貌は女子大生の形をしている。ゲーム大好きのマルダは、電脳ゲームだけでなく、ボードゲームも好む。エサはシャケが大好物。しかし、その卵のイクラは大嫌いという不思議な妖怪でもある。苦手は辛いもの。寿司はサビ抜き。うどんも七味抜き。だから、我が家では小妖怪マルダが住みついてからは、カレーは全然辛くないお子ちゃまカレーになりはて、他の料理もパンチのきかないマイルド料理になってしまった（苦笑）。

　誰もやらないことを好むのもマルダの特徴だ。今どき学生会なんかに自分から参加し、いろいろな役を引き受けている。学生たちに献血を呼びかけるティッシュを配り、勧誘なんかもしている。ボランティア精神旺盛なマルダだが、自身が献血に行くと、妖怪だから撥ねられてしまう。いや、実際は、１年目は体重制限で撥ねられ、リベンジを期して行った２年目は鉄分不足で撥ねられるという、どこか抜けてる妖怪だ。

　忘れ物は数知れず、先日も京都駅まで送って行ったが、切符を買う段になってＪＲの学割を忘れたことに気付き、隣のやまむらさんにＳＯＳを発信し、救助されていた。そう、我々はマルダに走らされること度々なのだ。しかし、憎めない妖怪である。

　マルダが起きられないのは、単に寝るのが遅いからだ。とはいっても、今流行りのゲーム障害とは違うだろう。女子大生を偽装しているので、予習、プレゼン準備、レポート、試験と大変なのだ。効率よく勉強しているかは疑問だが、頑張っているのは確かだ。今どきの学生さんは大変なのだ。

　現在、マルダは自動車免許取得のため、教習所に通っている。私も40年以上前に通った同じ教習所だ。すでに仮免許を取得して、京都の北山から岩倉辺りを走っている。先日は突然の豪雨の中、バックの練習をさせられていた。教習車だから、マニュアル通り窓を開け、大雨の中、顔を車外に出してバックしなければならない。それでも、小妖怪マルダはびしょ濡れになりながらも、見事バックで車を駐車させたのだそうだ。幸いマルダのかばんの中には、その日はタオルが入っていた。前日に下鴨神社御手洗（みたらし）祭に行こうとしたが、駐車待ちの行列に恐れをなして引き返した忘れ物だった。マルダは小妖怪だが神様のご加護も受けている。

　そんなお忙しいマルダなので、私が毎週行っている整体院に隔週で付いて来る。ここでもマルダの本領発揮。ぐっすり寝込んでしまうのだ。それが、最近は、整体院の先生の楽しみにもなっている。寝ているマルダを起こすのである。その方法は消炎鎮痛剤メンタームを使う。大瓶の蓋を取って、つんとしたサリチル酸メチルの匂いを鼻先に持って行くのである。すると、飛び起きる。

　この小妖怪、かつて部屋で寝ている時に、大妖怪ババに忍び込まれ、こめかみに消炎鎮痛剤アンメルツを塗られ、飛び起きたという事件を経験している。そのトラウマからサリチル酸メチルの匂いに弱いのである。ところが、先日、先生ががっかりした声で、「メンタムで起こしても、今日は起きませんでした～」と言ってきた。そこで、先生に教えてあげた。小妖怪マルダを起こす呪文を。

　再び待合室で寝入っている小妖怪マルダに二人のおっさんが接近する。マルダは平和そうに口をパクパクさせながら熟睡状態。そこに先生がメンタムの瓶を持って近づく。そして、ひとこと、「おばあちゃんが来はったで～（笑）。」

　一瞬でマルダが飛び起きたことは言うまでもない。そういえば大妖怪ババも、中妖怪も小妖怪マルダもイクラが嫌いなのは共通している。