私は2人の息子たちに「金銭は死ねまでに全部使うから相続財産はないよ」と言っています。
私の親の遺産は一切もらわず親と同居した弟に全部譲ったので、息子たちに遺産を残さなくてもバチは当たらないと思っているし、息子たちも「いいよ」と言っているので問題は有りません(今のところ)。
問題は、いつ死ぬのか分からないので、残るかもしれないし足らなくなるかもしれないということです。残るのはまぁ良いですが、足らなくなったら困りますね。答えがわからない大問題です。。。
自分の年齢を考えるとそろそろ身辺の整理をせねばと、同年代の人なら分かってくれそうなことを思い、その一つの策として「贈与」ということが頭に浮かんだ。 私が後に残って、そして死んでしまった場合、私の所有物は遺言に従って処分されるが、その前に一部を贈与しておこうと考えたわけだ。(夫が後に残ったならば、すべてを彼に一任できるのでこっちは楽チンである。) 贈与といっても私は金持ち・物持ちではないから大したものはないのだが、子供もいないし余分なものを持ち続けることは煩わしいだけなので、いくらかでも価値があるなら世話になった人たちにあげてしまいたいのである。 それで夫に、ドイツではどのくらいの額までなら贈与税が免除されるかと尋ねると、「うーん、調べたことないから何ともいえないなあ」という。参考までに日本の110万円という額を持ちだしてそれより多いか少ないかと訊いたら、「もっと多くても大丈夫だと思うよ」ということだった。 さて夫の会社の夏休み中に出かけた先でドイツの全国紙を読んでいたら、フィナンツェン(金融・財政・税)の欄にトルコリラ暴落のニュースが分かりやすいグラフ付きで派手に取り上げられていたので、ふつう金融などには無関心な私もそれに注目した。 遠いトルコの国の通貨が上下しても日本人には関係ない、とはいかないことは日本の新聞の報道などで理解されていると思うが、欧州では殊にその影響が懸念される。 ドイツの場合、それはこの国とトルコとの密接な関係のためというより、EUの中でこともあろうに財政難にあえいでいる南欧諸国の銀行がトルコの国債を買っているからで、トルコが債務不履行で借金を踏み倒した場合、窮地に陥ったそれらの銀行をドイツ国民の税金で救わねばならなくなるので、事態は極めて深刻である。 私はその納税者の一人としても業腹であるが、それより夫の会社の従業員が朝7時から午後4時まできっちり働いて、独身であればその49%を税・公課にとられ、その血税が世の中を舐めきった南の国の銀行の救済にまわされることを思うと、到底平静ではいられない。 そんなわけでフィナンツェンの欄にしっかり目を通し、それを畳もうとしたとき、裏頁にGeschenksteuer(贈与税)という文字が躍っているのに気づいた。 記事のタイトルは「軽々しく贈与を受けると税務署から手紙が来ます」というもので、専門的な話の導入部に分かりやすい例として、かのオリバー・カーン(通称オリ・カーン)が嘗てガールフレンドにふんだんに買い与えた贅沢品で贈与税が発生したという数年前の事件が紹介されていた。 それはヴェレーナ・ケルトとかいう女性のアホさ加減を世間に余すことなく暴露するようなエピソードで、こんな女を一時的とはいえ恋人にしていたオリ・カーンの節穴の目にも呆れてものがいえない。(私、この往年の名ゴールキーパー結構好きなのだけど。) 今では結婚してまともな家庭を築いているオリだが、多分最初の結婚が破綻してから再婚するまでの期間にこのヴェレーナと同棲していた時期があるようで、その間に彼女がオリからもらったものに税が課されることになった。 オリと別れてのち、タレント業のようなことをやっているヴェレーナがテレビに出演して、自分がいかにオリに愛されていたかを華々しく喧伝し、その証拠として、TV局のカメラを自宅に入れて自分の衣裳だんすの中身を披露した。 そこにはデザイナーブランドの洋服やらハンドバッグやら靴が所狭しと並び、かのイメルダ・マルコス元大統領夫人の華麗なるワードローブに挑むようなものだったらしい。(私はイメルダ・コレクションを90年代にマラカニアン宮殿で見たことがあるが、別にどうとも思わなかった。) 視聴者の感嘆の声と羨望のまなざしとはヴェレーナ嬢をいたく満足させ、オリもその気前のよさで男をあげ、妻も別に怒らず(それよりもずっと贅沢しているから)、結果はウィンウィンのように思われたのであるが。 好事魔多し。 この馬鹿げた番組の視聴者の中に税務署のお役人がいたのですね。 日本もだがドイツでも取税人の眼力の鋭さは、「何でも鑑定団」などの比ではない。どこでどう訓練されているのか、相続した壺をいくら「偽物です」と言い張っても、いやそれは18世紀のマイセンの陶器ですから○千万円の価値があります、とほぼ一瞬にして見抜く。 もちろん自国の歴史・文化や日常からかけ離れた物品を鑑定するのは容易でなく、私は何年か前に銀座のQ堂で数百万円という値札のついた香木を目にしたことがあるが、ドイツの税務署のオッサンがそれを見ても、浜辺に流れ着いた流木みたいな木片がなぜそんなに高価なのかとたまげるにちがいない。 同様に、アラビア半島で採れる「乳香」という珍品を日本の税務署の目利きに見せたところで、こんな黄色い塊が何か?と首をかしげるだけであろう。 しかしデザイナーブランドの品の値踏みなど税務署員には朝飯前の業で、即座にそろばん、いや電卓をたたいて概算し、ヴェレーナ宅を訪ねて詳細をチェックして合計額が出され、そしてそれに課される贈与税の額が通知されてきたわけだった。 この記事が掲載されていたのは「高級紙」の類で大衆紙や週刊誌ではないので、ヴェレーナがもらった贈答品の総額やそれに課された税率(これも累進になる)については言及されておらず、あくまでも贈与税なるものを分かり易くするために話題性のあるオリ・カーンが使われたまでである。 だから一般読者のために必要な知識として、ドイツでは限度額2万ユーロ(260万円)までならプレゼントをもらっても課税されないこと、そしてそれは赤の他人の場合で、夫婦間であれば50万ユーロ(6500万円)まで無税で贈与できる旨が記されており、私の疑問への答えになっていた。 ただしそれには様々な条件が付与されていて、260万円を無税で他人からもらえるのは10年という枠の中なので来年も再来年もというわけにはいかないこと、配偶者に6500万円以下の額をもらって免税になるのは一生に一度であることなども書かれている。 また通常の贈り物についての留意事項もあり、家族や親戚のあいだでやり取りされるお祝いの品などには普通は課税されないが、それにも限度がある。 例えば、娘が高校を卒業して良い大学に入ったというので小型車や中級車を贈るのは構わないが、ポルシェはダメとか。 単に愛しているという理由で毎月50万円もする高級な靴(どんな靴だ?)を彼女に贈り続けるのも、無税にはならない。 なお「贈与税」という言葉から、贈った人が税を払うと思われるかもしれないが実際にはもらった側が払わねばならず、この名称はおかしいという声もあるものの、ドイツ語の場合は直訳すれば「贈物税」ということなので矛盾はない。 さらに相続税や贈与税を含めて日本はドイツの税制を手本としているため、大体において説明を聞けば日本人にはすぐ分かる。 例えば、父親の遺言に「全ての財産を後妻に残す」と書かれていても、前妻の子ども(たち)には遺留分権というのがあるので、通常ならもらえる半分の代わりに4分の1はもらう権利がある、という点などは日本と全く同じである。 ドイツの税法で面白いのは有価証券の場合で、おじいさんがお気に入りの孫に数百万相当の株券をプレゼントしたあと、この孫の素行が悪くなったので怒って「あの株券を返せ」と言ったら、孫は返さなければならないという。 それから、このおじいさんが貧困老人になって「あの株を返してほしい」と請求した場合も同様である。 ところが孫が既にその株を換金し、それで賭け事などして擦ってしまっていた場合には、返さなくてもよいそうだ。返しようがないものね。 この辺りは込み入った話になるので、疑問がある場合には最寄りの税務署に相談することをお勧めします、というごく常識的な助言で記事は終わっていた。 (私なら相談なんかしないわ。だって財産たって、たかがしれているもの。) 写真は最近行った町の風景。この時期、橋はこんな風に飾られて「花の街」になります。 |