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2019年02月09日(土) 
日本を代表する家電メーカーであった東芝崩壊のプロセスを丁寧にトレースしたルポルタージュだ。筆者は経済ジャーナリストとして、長年、財界人への取材活動を行ってきた。東芝の破綻はどのようにして起こったのか。一般に、それは、東芝子会社の米国原子力会社WH(ウェスチングハウス社)が行ったS&W(ストーン・アンド・ウエブスター社)買収の失敗が原因と言われる。とんでもない負債を抱えた米国の原子力関連企業S&Wを、WH社が資産調査を全く行わず買収し、その結果、親会社である東芝本社が巨額の負債肩代わりを強いられる。買収してから、資産評価を行うつもりだったというデタラメさだ。東芝は、このS&W社の負債を弁済するために、東芝が誇る最良の経営資産であるフラッシュメモリ部門を売却していく。毒薬を自ら服薬し、自死したようなものだ。何とも馬鹿らしく、経営者の最低の責任すら果たせていない。東芝従業員の悔しさは筆舌に尽くし難いだろう。海の向こうの米国小会社が行った無謀な買収のツケが日本人従業員の犠牲のもとで賄われていく。

しかし、この事件は、東芝が抱え込んだ単発の不運ではない。東芝の歴代経営陣の悪質なガバナンスが産んだいわば必然的な事件なのだ。本書は、これを過去四代にわたる最高経営責任者がなした「人災」であったと説く。曰く「模倣の西室、無能の岡村、野望の西田、無謀の佐々木」と。元々のWH社の買収そのものも、これら代々の経営陣が後先も考えずに行ったことだ。しかもかれらはパソコン部門やテレビ・DVD部門の赤字決算を隠蔽するために、不正な決算処理手法を自らが発案し、部下に実行させてきた。チャレンジと呼ばれる不正会計処理を社長が指示するのだ。あるいは、バイセル取引という系列会社を使った架空利益を計上させ、架空利益のもとで彼らは役員報酬を受け取る。数々の不正を見抜けない会計監査法人と、隠蔽を手助けする会計事務所や法律事務所、さらに、財界幹部でもある東芝経営陣の訴追に消極的な検察庁。これらが一体となって、東芝という優良企業を崩壊させていく。

思うに、法人が経営を継続するための経営資源には、次の三要素が最低限必要になる。まずは、財務。これが適正に運営処理されてこそ、法人活動は成り立つ。しかし、東芝は、まずこの点で、無能を通り越して、詐欺的であった。次に人材。本書の指摘は、主に歴代社長の無能経営にあるが、しかし、いかに社長が馬鹿でも、身を呈してでも、その横暴を押し止める幹部が周囲にいれば、ここまで悲惨な結果は産まなかっただろう。東芝には、トップの不正を糺す人材がいなかった。最後に組織風土。東芝が行った不正経理、粉飾決算は、極めて悪質で組織的なものだった。利益が売上を上回ったこともあるという明らかに異常な決算処理を受け入れる土壌は、東芝という企業組織の病根の深さを物語る。

組織論としてみた場合、東芝の悲劇を育てた主因は、「社内カンパニー制」だ。ひと頃、県庁内でも、外郭団体に対して、ガバナンス強化を理由に導入を強いてきたことがあるが、東芝の失敗の重大な要因のひとつが、この社内カンパニー制だ。各事業部門を独立した会社法人と見なし、財務と人事の権限を与える。そうすることで、細部に経営管理の目が行き届いた法人ガバナンスと迅速な意思決定を可能にすると言われる。しかし、東芝の場合、この制度は、WH社のような法人本部が関与しずらい部門を産み、赤字の事業部門による不正経理の横行を黙認する結果となった。また、種々の経営情報が各事業部門止まりとなり、法人本部が蚊帳の外に置かれ、結局、法人としての経営責任の所在があいまいになる。ガバナンスを強化するはずが、逆に法人経営への無責任な振る舞いを事業部門に許してしまう。その典型的な失敗が東芝の悲劇となった。そして、それが巨額に及ぶ場合、全く関係のない良質な部門が、帳尻合わせの犠牲になる。

こうした東芝の悲劇は、決して、例外的な、無関係な事態ではないと思う。法人組織のどれもが、特に規模の大きな組織には、惹起しやすい事態だ。経営責任とは、組織のあらゆる部門、事業で起きる全ての事象に対して、一義的な責任を負うことだろう。誰かに、どこかに任せることなど、あり得ない。法人経営に関わる者はぜひ読まれたい。

閲覧数274 カテゴリ日記 コメント1 投稿日時2019/02/09 07:15
公開範囲外部公開
コメント(1)
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  • 2019/02/09 19:21
    東芝のみならず多くの企業に加え、国も似たような状態では!?
    次項有
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