1998年夏、当時の通産省が民間主導の情報化による地域づくり事業のために最大1億円の補助を行うというニュースを、兵庫県職員の友人から教えてもらい、暑い中、大阪天満橋のドーンセンターに説明会を聞きに行った。前年の1997年11月に連携方式としては日本初となるネットデイを、姫路・神戸・伊丹・ハワイで実施したものの、自分が期待していた波及効果が生まれなかったので、本格的にプログラムを展開するチャンスを狙っていた。 「任意団体でも補助の対象になる」 300人以上が参加する説明会で、話しを聞けば聞くほど、自分たちの活動のために作られた補助事業であるように聞こえた。質疑を含め1時間ほどのやりとりが終わったとき、まるでもう助成が決まったかのような気分になってしまっていた。よくある勘違いである..(^^) 3日くらいかけて書いた提案書が「はりまスマートスクールプロジェクト(HSSP)」。後に日本型ネットデイを構築することになる産学官民の有志による地域情報化事業の青写真である。総額8,470万円で地域の小中学校を専用線で接続し、すべての教室を高速ネットワークでつないだ上に、地域の善意で学校の仕組みを変革しようというもの。自画自賛の大事業であった。 全国から1000件以上の応募があり、その中から約1割が最終選考であるヒアリングに進み、HSSPも残って単身東京に向かった。普通は大きな企業や自治体などが絡んでいるので、ひとりでヒアリングを受ける候補はない。心細い中だったが、スマートバレージャパンという地域情報化の活動を共にしている東京の仲間が2名、脇を固めてくれて無事乗り切れた。 質疑は大変前向きで、居並ぶ先生方を煙に巻くこともなく、夢中ででもしっかりと答えられた。結果として、約40件の採択枠からは漏れたが、補欠のような措置で「補助ではなく研究」として1,000万円の支援を受けることができた。後で聞くと、選考委員の中から強く推薦する声があり、提案の完成度(実現性)に疑問はあるがもともとは設けられていなかった研究事業枠を作って試して貰うことになったのだという。この時に事務方のリーダーをしておられたF主任とは、後に文部科学省の開発事業で再会し、再び記憶に残る仕事をご一緒することになる。 1999年7月に、県立姫路工業大学工学部キャンパスにおいて発足したHSSPの展開については、後ほど詳しく述べる機会もあるかと思うし、HPに概要があるのでその後の活動も含めて参照が可能である。 http://www.ssj.gr.jp/hssp/ この実験事業の成果は、HSSPだけではなかった。ひとづてに「(報告書の分量が)1頁1万円」と聞いていたので、当初からF主任に尋ねていたが「実験事業なのでそんなにいらない」という回答。これに安心して実際の活動の推進に没頭していたのだが...中間報告あたりが雲行きが変わってきた。目次の整備、分析手法、論理的表記...いろいろ注文が多い。というのも、この時までまともな論文を書いたこともなく、また読んだこともなかった。無知な人間を指導するのに、F主任はどれほど忍耐強く我慢してくれたことだろう。結局、友人の予言通り、1000頁の大作になった(笑)。 報告書の背表紙には、 11情人76号 情報学習サポート事業 「スマートスクールによる学校の情報化支援の効果」 とある。「情人」という分類は、「情報化を支援する地域人材の発掘・支援」のためのテーマ。片田舎の何も知らないおじさんを、この実験を通じて一人前の実践者に育ててくれたのが、このIPA(情報処理振興協会)の事業であった。 おかげさまで、少しは文章を書くのも上手になったと自覚もあるし、なによりHSSPを始めとして手がけた多くの事業でたくさんの友人や戦友たちと巡り会うことができた。そして今、どこからの支援も受けることなく、地域SNSという新たな領域でこれまでのネットワークが息づいて活性化してくれている。過去の書類に目を通しながら、これから始まる未来を見つめている自分がいる。 これは「未来への記憶」なんだと。 |