「患者よ、クスリを捨てよ」 大特集
大特集 病気はクスリで作られる 特効薬の販売で 「うつ病」患者が 2倍に増えた! 悲しいことは全部「うつ」 患者はみな、この常識を信じ込んでいる。 しかし真実は正反対。 「クスリがあるから病気が作られる」のだ。 あなたが飲んでいるそのクスリ、本当に必要だろうか。 だが、これは氷山の一角にすぎない。貪欲な製薬会社が生み出した「メガ・マーケット」の代表格が、いまや国内だけで1200億円を超える「抗うつ薬」市場である。精神科医で、ノンフィクション作家の野田正彰氏が言う。 本来は建康なはずの人にまで「あなたは病気ですよ」と囁きかけ、病院に行かせてクスリを飲ませる。失恋で落ち込むのも、家族を失った悲しみも、全部「うつ」---まさにマッチポンプとしか言いようのないやり口だ。前出の野田氏も言う。 「グラクソ・スミスクライン社は、パキシルの日本上陸の際、日本の精神科医を集めて『日本人に抗うつ剤を飲ませるにはどうするか』を考える会議を開いています。この直後、「うつは心の風邪」というキャッチコピーが生まれました。さらにその後、自殺者数が増えると、チャンスとばかり「自殺の原因はうつ病です」と宣伝し始めた。 日本の場合は、医薬品そのものの宣伝は規制されていますから、こうして病気のキャッチコピーをまず広めるのです」 クスリは一般の商品とは違う。医者は、治療に必要だからクスリを処方するのであって、カネ儲けのためではない---そんなふうに信じていたら、それこそ製薬会社の思うツボである。彼らは、専門知識を持たない一般人の、病気に対する「考え方」をまず掌握するのだ。
医者と製薬会社はウハウハ
製薬会社は、クスリを飲む患者の側だけでなく、飲ませる医師の側にもぬかりなく手を回す。患者の目に触れることはまずないが、医師のもとには「MR(医薬情報担当者)」と呼ばれる製薬会社の社員が日夜訪れ、クスリの営業をかけている。ある積神科医はこう証言する。
「言葉は悪いですが、要するに色仕掛けですよ。キャビンアテンダントみたいな若い女の子がやってきて、上目遣いでバンフレットを手渡しながら 「先生、新しいおクスリの治験結果の発表会があるんですが、ご出席になりませんか?」と誘うわけです。「行きます」と答えれば、交通費はもちろん、一流ホテルの宿泊費も会食費も、すべて製薬会社が持ってくれる。ちょっとしたスピーチでもすれば、10万円が入った封筒がこっそり渡される」 毒まんじゅうを食わされたが最後、もうその会社のクスリを処方しないわけにはいかない。こうして医師は、躊躇いなく患者を「クスリ漬け」にしてしまうのだ。
「日本うつ病学会の設立には、グラクソ・スミスクラインが関わっています。最近、ある大学病院では、注意欠陥多動性障害(ADHD)のクスリを作っている製薬会社の寄贈で小児精神医学の講座が開かれ、障害の増加を煽っていた医師が教授に就いている。製薬会社が面倒をみて、医師は病気の宣伝に励むという悪循環です」 (前出・野田氏)
病院に行くたび、山ほど処方されるクスリに辟易している読者も多いだろう。渡されたクスリが過不足なく、きちんと効くのならまだいい。しかし、こと抗うつ薬に関して言えば、クスリそのものの効果にさえ疑問符が付いているという。前出の斎藤氏はこう言う。「そもそも、SSRIはなぜ効くのかというメカニズムがはっきりと解明されていません。プラシーボ(偽薬)と比較した実験で、効果にほぼ差がなかったというデータも出ています。
また、SSRIを飲んだ患者の『改善率』は約6割ですが『寛解率』は約3割。つまり、6割の患者がよくなったものの、そのうち半分の患者しか治っていないということなのです」
うつ病には、抗うつ剤が効くタイプとそうでないタイプがあり、診断法や治療法もそれぞれに異なる。熱達した積神科の医師には注意深く患者に向き合うことで正確な診断を下すことのできる者もいるが、むしろ、そうした技術は徐々に失われつつあるのだという。多くの精神科医は「DSM―5」という世界共通の診断基準に照らして機械的にうつ病の診断を下し、患者を抗うつ薬漬けにしているのが実情。量近では「うつ病」と「うつ状態」の区別もつかない内科医が、不定愁訴を訴える患者にとりあえず抗うつ葉を処方することも珍しくない。 福島県のメンタルクリニツクなごみ所長で、自身もうつ病にかかった経験のある蟻塚亮二医師が話す。 「そもそもうつ病とは、自分と周囲の環境の相互作用に無理が生じているから起きる病気です。治療において、クスリはあくまで補助的な役割を果たすに過ぎない。価値観やストレス解消法、あるいは周囲の環境を見直すことが重要なのですが、医師はそうしたことを患者にほとんど言いません。 私のクリニックでは、抗うつ薬は製薬会社が推奨する量の半分程度しか使いません。投与する量を増やすとメリットよりもデメり ットが大きくなる。暴力的になったり、自殺衝動に駆られる人も出てくるのです。ところがこれまで、学界で著名な医師は『抗うつ薬が効かない場合は、どんどん量を増やすべし』と指導してきました。
基準を変えて患者を増やす
蟻塚氏が指摘する通り、抗うつ薬には副作用も報告されている。思考力の低下、手が震える、攻撃的になるといった症状が挙げられるが、最悪の場合は自殺に至る患者もいる。彼らの中には、なかなか病状がよくならず、最終的に一日あたり20錠、30錠ものクスリを処方された末に死を選んだ患者が少なくない。 「以前、よその病院でうつ病の治療を受けていた患者さんが来られたのですが、その人は4種類の抗うつ薬をすべて最大量まで飲まされていました。抗うつ薬を増やしすぎると効かなくなってしまい、いざ気分が落ち込んだとき、深刻な抑うつ症状に襲われるため、たいへん危険なのです」(前出・蟻塚氏) 上の表をよく見ると、’11年から翌年にかけてうつ病の患者数は滅っているにもかかわらず、抗うつ薬の売り上げ高は大きく伸びている。「クスリ債け」のうつ病患者が増えていることの証左と言えよう。 病気とクスリのマッチポンプは、うつ病ばかりにとどまらない。前出の野田氏が言う。 「もうこの30年ほど、医学界では本当に意義のある新薬がほとんど開発されていない。ディオバンが問題になった降圧剤についても、’80年代までは血圧160以上が高血圧だったところを、『140以上はグレーゾーン』というふうに基準を緩めてクスリの需要を作り出したわけです。これによる製薬業界の儲けは何十兆円にもなります」 それまで「異常ナシ」の診断を受けていた人が、基準値の変更で突然「異常アリ」にされてしまうのだ。 コレステロール値についても同じことが指摘されている。’70年代には総コレステロールの基準値は血液100mlあたり260mgだったが、’90年に220mgに変更となった。高脂血症治療薬の「メバロチン」が発売されたのは、そのわずか半年後のことだった。現在でも高脂血症治療薬は、国内だけでも約3000億円の市場規模を誇るドル箱である。 その他にも、近年になってクスリでの治療が可能になったといわれる男性型脱毛症、つい量近までは「胸焼け」と呼ばれていたはずの逆流性食道炎など、メディアで急に取り沙汰されるようになった病気は、必ずと言っていいほど新しいクスリの発売と連動している。 特別養護老人ホーム・芦花ホーム医師の石飛幸三氏がこう嘆く。 「製薬会社も世のためと思って一生懸命やっているのかもしれません。しかし、最初は善意であっても、結果的に患者のためにならない事態を引き起こしているのです。 患者には、医療への過剰な期待がある。医師は、とりあえずクスリをたくさん出すのが、その期待に応えることだと思っている。目先の売り上げや名声ばかりを追って、真に患者のことを見ようとしない」 医療関係者とて聖人ではない。彼らは、カネのためなら病気を作る。クスリが増えるほど、患者も増える---この事実を知っておく ことが、クスリ漬けにされないための大前提である。
児玉孝氏が語る「クスリの適正量」
必要のないクスリを見極めるために、「かかりつけ薬局」を持つべきと児玉氏は言う 「患者よ、 クスリを捨てなさい」
クスリは「毒」である 日本人は「クスリ好き」と言われますが、実際、諸外国に比べて日本でのクスリの消費量は多い。昔から日本人には『何か症状が出たら、とりあえずクスリをもらって治そうとする傾向がありました。 なぜここまでクスリ好きになったのか。かなり古くから、その土壌があったと思われます。漢方薬の本場である隣国・中国から、その知識が日本に入ってきて、緯度や気候も中国と似ていることから、漢方薬に使われる生薬も育ちやすかった。さらに、「富山の薬売り」が全国を回っていたこともあり、一般的には置き薬のシステムが定着していました。 そこに輪をかけたのが、1961年から導入された国民皆保険制度でしょう。高齢者の医療費負担がゼロだった時期もあったため、「タダでクスリがもらえるなら、飲んでおいたほうがいい」という雰囲気もあった。病院でクスリを処方されないと不安に感じて、患者さんが自ら「クスリをください」と要求することも増えていきました。 日本で製薬業が発展したことも影響しています。クスリの研究・開発は時間とおカネがかかる知的産業ですから、クスリを作っている国というのは、日本を含めてそれほど多くはありません。クスリが身近に手に入るという面で、日本人は恵まれているのです。 ですが、現代の西洋医学におけるクスリというのは、人工的に作られた化学合成物質ですから、身体の中にはもともと存在しないもの であり、「毒」と言ってもいい。できれば飲まないほうが良いものなのです。
こう話すのは、日本薬剤師会会長の児玉孝氏である。 厚労者がまとめた資料 (医薬品産業ビジョン2013)によると、日本の医薬品の市境規模は、2011年で9兆3105億円。世界の11.7%のシェアを占め、アメリカに次いで第2位。これだけを見ても、児玉氏の指摘するように日本の市場がいかに巨大か分かるだろう。
人間は高等生物ですから、異物が体内に入ってくれば、それを排除して体調を整えようとして、さまざまな反応を起こします。花粉症なども、まさにその一例です。異物である花粉を排除しょうとして、くしゃみや鼻水、涙などの反応が出るのです。これと同じように、クスリも人体にとっては異物であるため、体内に入るとさまざまな防御反応が現れます。 この防御反応が、病気の症状にとって良い作用を起 こすと「有効性」となる。逆に悪い作用となって現れるのが「副作用」です。良い働き(有効性)をできるだけ増やして、悪いほうの働き(副作用)をできるだけ抑えるように作られたのが、クスリというわけです。 つまり、副作用はどんなクスリにも必ずあるのです。漢方薬も、生薬の中に化学合成物質と同じ有効成分が含まれているからクスリとされるのであって、副作用はある。 さらに、必ずしもすべてに当て嵌まるわけではありませんが、よく効くクスりの多くは副作用のリスクも高いということも知っておいたほうがいいでしょう。 飲んでも病気は治らない
もう一つ理解しておくべきことは、「病気を治せないクスリ」もあるということです。風邪薬や、高血圧、糖尿病といった生活習慣病のクスリなどが代表的ですが、これらは症状を抑える ものであって、病気を治すクスリではありません。 風邪薬は、熱を下げたり鼻水を止めたり、症状を抑える効果はありますが、風邪そのものを治すわけではない。熱を下げようと思って解熱剤を飲み続ける人もいますが、無理に熱を下げる必要はありません。 発熱しているということは、まさにいま体の中で異物を排除するために防御反応が起こっているということ。その反応を無理に抑えてしまうと、逆に治りが遅 くなってしまう可能性もあります。仕事などがあって、どうしても熱を下げないと困るというときにだけ、解熱剤を飲めばいいのです。 また、解熱剤と同様にロキソニンなどの鎮痛剤も、痛みは抑えられても、痛みの原因を取り除けるわけではないですし、長く飲み続ける性格のものではありません。日本では抗生物質の消費量も他国に比べて多いようですが、投与を続けることで耐性ができ、肝心なときに効かなくなってしまうこともあるのです。 超高齢社会の到来に伴って、外科的な処置よりも体に負担が少ない内科的治療を選ぶ人が増え、クスリの消費量はさらに増加していくでしょう。ですが、高齢者はとくにクスリの飲みすぎに気をつけて欲しいと思います。
厚労者が昨年発表した資料(平成23年度 国民医療費の概況)によると、一人当たりの年間の薬局調剤医療費は、65歳未満で約3万円。それが65歳以上になると、約12万円と4倍にも膨れ上がる。老化とともに病気は増えるとはいえ、高齢者のクスリの消費量は明らかに多い。 むやみにクスリを飲み続け、いわゆるクスリ債けという状態に陥ると、臓器に負担がかかった結果、肝機能障害を起こしたり、腎不全となって一生透析を続けざるを得なくなることもある。
クスリは体内に入ると、肝臓で解毒・分解されて、腎臓を通って最終的に尿として体外へ排出されます。この解毒作用は、誰でも歳を取ると低下していき、肝臓や腎臓に負担がかかりやすくなるのです。 加齢と共に抵抗力が弱まると、異物に対する反応も弱くなり、副作用が起こっていることにさえ気づきにくくなってしまう。副作用を自覚できず、さらに深刻な事態に陥ることも考えられます。 治療の方法や副作用の出方は患者さんによってさまざまです。医師は、患者さんに早く良くなってもらいたいという思いでクスリを処方しますが、他のクスリとの飲みあわせや副作用のことを事細かに考えている時間はないはずです。医療が高度化することで、現場の負担はさらに増えていますから。クスリの飲みあわせの管理や細かい副作用についての説明は、薬剤師の仕事になります。 患者さん側も医師から処方されたものを漫然と飲むだけで、何のためのクスリなのかを理解せずに飲んでいる人が多いのではないでしようか。 私が実際に経験したケースでは、こんなことがありました。80歳くらいの高齢の男性でしたが、訊くと、26種類ものクスリを処方されていたんです。さすがに驚きました。これほどの量を一度に飲めるわけがありません。 なぜこのようなことになったかというと、3ヵ所の病院にかかっていたからです。関節の痛みだったり、高血圧だったり、さまざまな症状があって、それぞれの専門科にかかっていたらここまで量が増えてしまった。そこで、26種類のクスリをリストにしてあげて、病院に相談しに行ってもらいました。医師もびっくりしたようですが、結局、26種類からたった6種類にまでクスリを減らすことができた。 つまり、それ以外の20種類は必要がなかったわけです。 その高齢男性は、処方されたクスリを飲みきれなかったので、自分で適当にチョイスして飲んでいました。クスリの飲みあわせによる副作用が出なかったことは幸いですが、本当に必要だったクスリを飲んでいなかったため、何の効果も得られていませんでした。
明らかに飲みすぎです
この男性のように、患者さんが自分でクスリの量を調整してしまうことがありますが、これにも注意が必要です。たとえば、一回2錠飲む必要のあるクスリを、一回ー錠にすれば半分の効果が出て、一回4錠飲めば効果が倍になるのではと思う人がいますが、どちらも間違いです。クスリは、ある一定量を飲んではじめて効果が出るので、量が少ないと効果がほとんど得られず、一定量以上を飲んでも効果は変わりません。逆に、クスリを2倍量飲んだとき、副作用は2倍以上になる可能性もあるのです。 26種類というのは明らかに異常ですが、一日に何種類以上のクスリを飲んでいたら飲みすぎになるのかということは一概には言えません。けれど、3ヵ所以上の医療機関から計6種類以上のクスリを処方されて飲んでいる人は、薬剤師に一度チェ ックしてもらったほうがいいでしょう。それぞれの医師が、患者さんの症状を診て処方しているわけですから、同じ効能のクスリが重なって出されていることがあり得ます。クスリの重複や飲みあわせによる副作用を防ぐために「お薬手帳」がありますが、それだけでクスリを管理するのは、現実的には限界があるかもしれません。それに代わる方法としては、「かかりつけ薬局」を持つことも有効です。複数の病院にかかることがあっても、自宅の近くなどにかかりつけの薬局があれば、そこで一括してクスリを処方して管理もしてもらえます。患者さんから「このクスリは効かない」「このクスリを飲むと湿疹が出るから替えてほしい」といった相談があれば、薬剤師は処方した医師に確認する義務(薬剤師法に定められた「疑義照会」というシステム)があるのです。薬剤師というと、処方箋 に従ってクスリを出すだけの専門家という印象が強いかもしれません。ですが、クスリに関することは何でも訊いていただいていいんです。処方薬をもらう際、市販薬やサプリメントなどとの飲みあわせの相談でもいいですし、ご自身の体調のことを気軽に相談できる薬剤師を見つけていただきたい。 クスリ同士だけでなく、サプリメントや健康食品とクスリの飲みあわせで、悪影響が出ることもあります。たとえば、血液をサラサラにするワーファリンというクスリは、クロレラのサプリと一緒に飲むと効果が落 ちてしまう。こうしたことも、かかりつけの薬剤師に相談できれば、未然に防ぐことができるでしょう。 薬剤師はクスリを売りたがるというイメージがあるのかもしれませんが、それも誤解です。むしろ我々としては、クスリの処方量が減っていくことが望ましい。患者さんの健康を守りながら、最小限のクスリで最大の効果を上げていきたいと思っています。 日本には、昔からクスリが身近なもので、クスリを飲んで病気を治すのが当たり前という感覚が根強くありますが、まずはクスリの正しい知識を身につけ、意識を変えていくことが必要ではないでしょうか。 |