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2019年06月12日(水) 
先日森鴎外の短編を読んでいたら、普通の男の子の遊びはほとんどしなかったという子供時代の鴎外(どうも運動神経がよくなかったらしい)が、蘭医である父親にオランダ語を習っていてサフランという言葉に出くわし、辞書を引いて「お父っさん、サフラン、草の名としてありますが、どんな草ですか」と尋ねる箇所があった。

(サフランは「洎夫藍」と書かれていたそうだ。)

かの鴎外が、「父上」でもなく「お父さま」でもなく、「お父っさん」とその父親に呼び掛けていたことを好もしく思った。

一方で、鴎外はそのドイツ仕込みのライフスタイルといい、子どもたちに付けたやけにハイカラな茉莉、不律(フリッツ)等の名前といい、西洋文化に心酔した大教養人という印象が強いので、子供時代とはいえ「お父っさん」はちょっと意外だった。

そういえば、鴎外の次女の小堀杏奴(アンヌ)による「思い出の記」の中に、「お母ちゃんが心配するからそれは見せちゃいけない」と父親に言われたとあり、おや、森家では母親は「お母ちゃん」だったのか、とその庶民性にちょっと驚いたことがある。

父親の鴎外の方は、娘たちのエッセイにあるように「パッパ」で、夫人もそう呼んでいたらしい。

考えてみると、昔の人は-少なくとも昭和初期までは-親を「お父さま・お母さま」と呼ぶことはほとんどなかったのではないか。

私が子供の頃に知っていた由緒ある家の人たちも、母親は「母さん」、父親は「お父さん」で、そういう呼び方すら戦前にはかなり上品な部類に属したようだ。

(私の父は祖父を「ととさん」と呼んでいたそうで、ととさん・かかさん、が普通だった。生きのいい「おとっつぁん」を使っていた人も多かったろう。)

良家では両親にきちんと敬語を使い、上記の知り合いも「母さん、先に召しあがって下さい」とか、「お父さん、午後はお出かけですか」などと言っていた。

ところが今はどうだ。お父さま・お母さまが大流行で、これは「タクは上流ざますの」と周囲に喧伝しているのだが、そう呼ばされている子どもたちが親に敬語を使うことなどまずない。

あるときわが家に遠縁の婦人が孫を連れて立ち寄ったことがあった。茶道・華道の師匠をしているこの女性は、当然のことのように孫に自分を「おばあちゃま」と呼ばせていて、孫はそれに従っているのだが、後に続く言葉がいけない。

「おばあちゃま、行こうよ」、「おばあちゃま、早くしなよ」である。

上流モドキのその婦人と孫たちが去ってから、意地が悪く口も悪い我が母が「ふん、おばあちゃまが聞いてあきれる。孫にまともな言葉遣いも教えてないくせに」とこき下ろした。

思慮を欠いた母は思ったことをすぐ口に出す悪癖があって、私はそのためにずいぶん厭な思いをしたけれど、このときも言い方は棘だらけだったものの発言の中身は正しいと思った。

またあるとき女優だか歌手だかのインタビューを読んでいたら、彼女の息子が「お母さま、やばいよ」と褒めてくれたと誇らし気に語っており、こっちは鴎外の「お父っさん、・・・ですか」と真逆のケースで、にわか仕立ての似非上流家庭という感じ。

(芸能人が上流を気取ってどうすんべ、という気もする。)

お父さま・お母さまと呼ばせてさえおけばそれで高い身分の証になると考え、使う言葉に何の頓着もせず子や孫にぞんざいな物言いを許しているのは、高級そうな洒落た帽子をかぶって澄ましているが足元はつっかけサンダル、というような無様・不格好である。

楽なサンダルを履きたければそれは自由だが、ならば頭には麦藁帽子でよろしい。

きょうびの若い夫婦が子供に言わせたがる「マミー」だの「ダディー」だのに至ってはもう論外だ。それなら始めから終わりまで英語で話すべし。

見苦しさ・聞き苦しさを避けようとすれば、万事に渡って相応というか調和が保たれていなければならない。日常使われる言葉でもそれは同じだと思う。というのがこの保守婆さんの意見。

写真は私の住む地域の伝統的な麦藁帽子と麦藁靴で、これらは雪で外に出られない冬場の家内制手工業でした。

閲覧数75 カテゴリ日記 コメント10 投稿日時2019/06/12 01:17
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コメント(10)
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  • 2019/06/12 05:45
    オットー、マリー、フリッツ、アンヌ、ルイ...
    お孫さんはというと
    マックス、トム、レオ、ハンス、ジョージ、ジャック...

    鴎外、結構好きなのです。
    元祖キラキラネーマーw
    なおかつ元祖中二病患者...
    (半分以上、確信犯的にやってます)

    今時のラノベと決めてかかって読む『舞姫』はすっげー面白い。
    一方の漱石がこれも確信犯的に『日本教なるもの』に向かっていった
    その合わせ鏡な感があります。
    次項有
  • 2019/06/12 15:32
    鉛筆ベッガさん
    > かーりーさん
    中二病って初めて聞いた。遅れてます?!
    でも中一・中二の私はかなり重症の鬱だったので、驚きませんけど。その理由は・・・暴行未遂。ちょっと深刻になりすぎるので、詳細は省略。でもこの悪夢体験のおかげで、思春期の娘たちに堂々と「そんな些細なことでグタグタ言うな!」といえる権利を手に入れたと思っています。

    漱石は鴎外に比べると長すぎて読んでいるうちこちらも神経症になりそう。鴎外のドイツ三部作のうち、何たってイチオシは、あまり人気のない「文づかい」です。こういうドイツ女性、知っています。憧れ!

    漱石と鴎外の描く女性たち、どうしてこんなに違うのかなあ、と思っていたら、宮本百合子が鴎外・漱石・荷風の女性観について書いた「歴史の落穂」という小論を見つけました。共産主義者宮本顕治の妻をすっかり見直しました。

    というより、その前に彼女がドイツ人画家のケーテ・コルヴィッツについて書いたものを読んで見直し、それでいろいろ探しているうち、この「歴史の落穂」を見つけたのですが。

    ケーテ・コルヴィッツについては「ドイツの版画家、彫刻家。周囲にいた貧しい人々の生活や労働を描いたほか、自分自身の母として・女性としての苦闘を数多くの作品に残した。ドイツ帝国、ヴァイマル共和国、ナチス・ドイツという揺れ動く時代を生きた、20世紀前半のドイツを代表する芸術家の一人である。」とウィキにあります。凄い作品を残しています。そして、今の社会党連中の主張する社会主義と彼女の信条との間には、雲泥の差があります。

    写真はコルヴィッツ
    次項有
  • 2019/06/12 11:15
    zosanさん
    私は、「おとうちゃん」「おかあちゃん」で育てられました、周りも皆そうでした。
    中学生、高校生くらいになると、ちゃん付けをなんとなく恥ずかしく感じてきましたが、言いなれた言葉をなかなか直せなく、大学生の時もそうでした。
    そのころ外部に対しては「おやじ」「おふくろ」、社会人になってからは「ちち」「はは」と抵抗なく言えていました。

    家庭内でいつ頃「おとうさん」「おかあさん」と言えるようになったのか記憶にはありませんが、最初のころはかなり勇気が必要だったことを覚えています。

    そんなことが有ったので、自分の子供は小さいときから「おとうさん」「おかあさん」で育てました。
    次項有
  • 2019/06/12 15:40
    鉛筆ベッガさん
    > zosanさん
    私も私の周りも「おとうちゃん」「お母ちゃん」でしたね。中学生になってわりとすんなり切り替えた覚えがあります。私は長女なので、弟妹もそれに倣って中学生の頃から。なんでも真似されました。

    長子というのはPfadfinder的な役割を担いますね。Pfadは径、Finderは見つける人、開拓者という意味とともに、ドイツではボーイスカウトをこう呼びます。
    次項有
  • 2019/06/12 14:36
    わたしは当時はやりだった?「パパ」、「ママ」で育てられました。
    子どもが生まれてからは「おじいちゃん」「おばあちゃん」。

    むすこたちには最初から「おとうさん」「おかあさん」。
    なのにいまやあだ名で呼ばれている始末。
    親離れ、子離れしてませんねえ。


    麦わら帽子と靴、とってもかわいいです。
    これは夏のために農家が作っていたのでしょうか?
    色がキュートです。
    次項有
  • 2019/06/12 16:05
    鉛筆ベッガさん
    > くちべにがいさん
    そうそう、60代以降はパパ・ママが圧倒的でした。子供には発音が優しいという利点がありますね。そのうち「オヤジ!」に変えたりするんでしょうけど。

    自身の子供はいませんが、「おばちゃん」「おばさん」だった甥たち、今ではファーストネームで呼びます。まあ、40歳前後と70歳過ぎでは、名前を呼びあってもいいですね。

    ドイツでは「パパ」が多いけど、小さい子は「パピー」と呼びます。「ママ」の代わりに「ムッティ」と呼ぶ子も。地方性がありますが。

    帽子と靴、これは冬の間の内職で貴重な収入源でもあったようです。

    上の写真とはちょっと違う名物の女性用帽子もあって、未婚者は赤、既婚者は黒のボンボンを乗せます。これ、かなり重いんですよ!
    次項有
  • 2019/06/13 00:57
    > ベッガさん

    麦わら帽子に巨大ボンボン!
    お祭りとか競馬とかで被るのでしょうか?

    日本で被るには勇気がいりますねえ。
    次項有
  • 2019/06/13 14:51
    鉛筆ベッガさん
    > くちべにがいさん
    このあたりに来る観光客では、アメリカ人女性がこの帽子を被って得意そうにしていることがあります。さすがにアジア系はちょっと・・・

    もとはお祭り用だったようですが、夏季にあちこちでおこなわれる民族衣装行列などでも見かけます。
    次項有
  • 2019/06/17 17:52
    私もお父ちゃん、お母ちゃんで育った口です。
    子供達にはお父さんお母さんで育てたつもりですが、発音しにくいのか、いつのまにか父さん、母さんで定着していました。
    次項有
  • 2019/06/17 17:59
    鉛筆ベッガさん
    > ろれちゃんさん
    父さん、母さん、いいですね。普通ですっきりしていて。

    私の子ども時代にはたまに「おかあ」と呼んでる人もいましたっけ。
    次項有
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