「本堂裏の猫とのこと」
今日の夕方、いつものとおり本堂でのお勤めを終えて、庫裏に帰るときのことでした。本堂と庫裏との渡り廊下を通るときに、ふと下を見ると本堂裏の端に猫が座っていました。黒、白、グレー三色の毛がふさふさしたペルシャ風の中ぐらいの大きさの猫でした。私がこの猫に気づいて見つめると、猫も私を見上げて見つめていました。猫を見つめると猫も見つめ続けるということは、よくあることです。私はつい、この猫をじぃーと見つめてしまいました。すると猫もじぃーと私を見つめています。
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これではもう、にらめっこです。私と猫とのにらめっこが始まりました。私は視線を外しませんが、猫も視線をまったく外しません。今夜から数日は、大変大事な日が続きます。猫ごときに虎ファンが負けるわけにはいきません。絶対猫に負けじと私は、じぃーと睨み続けましたが、猫もじぃーと私を睨んでいます。まるで昔読んだ蛙とオオサンショウウオとの我慢比べのようになってきました。
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何分たったでしょうか。じぃーと猫を見ていると、猫は見えているのですが猫の背景がぼやけて、猫の躰だけが見えるようになってきました。それでも私は、猫をじぃーと見続けました。
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もう何分経ったのか、私の目がいよいよボーとしてきたそのとき、猫がふとそっぽを向きました。勝った、私の勝ちです。猫は以前のまま座っていますが私への視線を外したので、私はにらめっこに勝利した歓びを噛み締めながら庫裏に戻り、庫裏のお内仏で気持ちよくお勤めすることができました。
さて、今夜の虎は勝てるかなあ。
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