モーツァルトは全部で6曲の弦楽五重奏曲を作っている。(カッコ内の数字は作曲年) 第1番 変ロ長調 k.174 (1773) 第2番 ハ短調 k.406 (1787) 第3番 ハ長調 k.515 (1787) 第4番 ト短調 k.516 (1787) 第5番 ニ長調 k.593 (1790) 第6番 変ホ長調 k.614 (1791) 弦楽五重奏曲は一般的に弦楽四重奏(ヴァイオリン2人、ヴィオラ1人、チェロ1人)にヴィオラ又はチェロを加えて五重奏にしたものだが、モーツァルトの6曲は全てヴィオラを加えたものである。 モーツァルトは、重厚さを狙うのではなく、密度の濃い音楽を求めたのであろう。 そして構造的特徴としては、第一ヴィオラに重要な役割を与えていることで、随所に現れる第一ヴァイオリンとの「掛け合い」は、前回取り上げた協奏交響曲と相通ずるものがあり、それが「ヴィオラが目立つ曲」にしているのである。この特徴は17歳のときに書いた第1番で既に表れている。 https://www.youtube.com/watch?v=XNZBzBv0ztQ
この6曲は名曲揃いと言えるが、その中に短調の作品が2曲含まれていることは注目に値する。短調の曲が極めて少ないモーツァルト(41曲もある交響曲でも2曲、27曲のピアノ協奏曲でも2曲しかない。)としては異例と言わなければならないが、この2曲が作られた1787年(31歳)という時期を考えると、ある程度の必然性があったとも言える。というのは、この時期にピアノ協奏曲のニ短調 k.466(1785年) とハ短調 k.488(1786年) 、交響曲の第40番 ト短調 k.550(1788年)が作られているからである。 この2曲のうち、「管楽器のためのセレナーデ k.388」の編曲である第2番は置くとして、最も人気の高い第4番を聴いてみると、 https://www.youtube.com/watch?v=tADFykouEb0 この曲は短調のピアノ協奏曲や交響曲と同様、およそモーツァルトらしくない悲劇的な曲想であるが、第4楽章において、陰鬱なト短調の序奏のあと俄然明るく快活なト長調に転じ、希望に満ちた形で全体を締めくくるところは、まさにモーツァルト的であると言わねばならない。
最晩年になって、再びモーツァルトらしい長調の2曲が生まれるが、それらは、劇的な表現を捨てて純粋に音楽の楽しみのみを追求しているかに見え、特に死の年に書かれた第6番の簡素で澄み切った音楽は、同じく死の年に書かれた最後のピアノ協奏曲(第27番 変ロ長調 k.595)と同様、もはや「悟りの境地」に達していたのではないかとさえ思える。 https://www.youtube.com/watch?v=OG0ENP98-KQ |