わが国でクラシック音楽といえば、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンと続くドイツ・オーストリアの音楽が主流で、演奏される機会もCDの売り上げも他を圧倒している感がある。
フランス音楽やイタリア・オペラ、チャイコフスキー以降のロシア音楽もよく聴かれるようになったとは言え、まだまだ少数派である。特にイギリス音楽はほとんど知られていない。
これは、明治以降の日本の音楽教育がドイツ・オーストリア音楽一辺倒で進められたことによる。
イギリスは大英帝国以来、音楽に関しても大消費地であり、現在も多くの優れた演奏家の多くはロンドンに拠点を置いて活躍しているし、世界的に知られたイギリス人の演奏家も数多い。
これに比べると作曲家は影が薄い。バロック時代にはヘンリー・パーセルという大作曲家を輩出したし、あのゲオルク・フリートリッヒ・ヘンデルもイギリスに帰化して多くの優れた作品を残したが、それ以降19世までは目立った作曲家は出ていない。
19世紀から20世紀にかけて、何人かの優れた作曲家がイギリスに生まれている。エドワード・エルガー(1857~1934)、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872~1958)、グスターヴ・ホルスト(1874~1934)、そしてベンジャミン・ブリテン(1913~1976)である。
しかし、彼らの残した曲は日本ではほとんど知られていない。僅かに、エルガーの「威風堂々」、ホルストの「惑星」の中の「木星」、ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」などが知られている程度である。
先日珍しいCD(輸入盤)を手に入れた。ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第4番と第5番で、第4番は作曲者自身がBBC交響楽団を指揮したもの(1937年)、第5番はジョン・バルビローリが手兵ハレ管弦楽団を指揮したもの(1944年)である。1944年といえば第2次世界大戦の末期、ドイツ軍の脅威に晒されていた時期にこういう録音がされたというのは驚くべきことである。
この2つの交響曲はなかなかのものである。シベリウスを思わせるところもあればショスタコーヴィッチに似たところもある。イギリスの指揮者やオーケストラはシベリウスの演奏では定評があるが、フィンランドと風土的・体質的に似たところがあるのであろう。それがこれらの曲の旋律や響きにも現われているように思える。
ヴォーン・ウィリアムズ自作自演のCD
彼らの音楽は近・現代につくられたとは言え、前衛的な音楽ではなく伝統的な作曲技法によっているから我々素人の耳には馴染みやすく、もっと聴かれていいはずである。これからも彼らの曲を探して聴いてみるつもりである。