秀作と駄作、これは人の名前ではない。ベートーヴェンの作品についての論評である。 ベートーヴェン・ファンの方からお叱りを受けることを承知で、わが思いを書き記す。
9曲の交響曲をはじめ、ピアノ協奏曲、ピアノソナタ、弦楽四重奏曲など、どれをとっても秀作揃いのベートーヴェンではあるが、駄作の範疇に入るものもかなりある。 彼はフィデリオのために序曲を何曲か作曲しているが、どれも秀作とは言えないであろう。これは作曲者自身気に入らなかったから、何度も作り直していることからも明らかだ。僕はフィデリオ自体もオペラとして秀れた作品であるとは思わない。
しかしこれは駄作だ。とにかく長すぎる。演奏時間は20分ほどだが、そう感じるのは内容がないからである。同じ楽想をこれでもかこれでもかと繰り返す。彼の代表的歌曲である「アデライーデ」もそうだが、この執拗さはベートーヴェンの持ち味でもあるとは言え、聴く方からすると 《ええ加減にしてくれ》 と言いたくなる。
ピアノの音だけを、管弦楽のアンサンブルだけを、合唱と独唱の声だけを聴くのならいいが、一つの音楽として聴くのにはかなりの我慢を強いられるのである。ピアノ協奏曲第3番がいい曲であり、若き日のダニエル・バレンボイムの演奏も秀逸であるだけに、もったいないCDだと言える。 |