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2008年12月15日(月) 
米国で約40年前、オワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した発光生物学者の下村脩博士が、ノーベル化学賞に輝いた。下村博士が発見した当時は「何の価値もない物質だった」が、遺伝子工学が進歩した1990年代に入ってがぜん世界的な注目を集めるようになった。GFPの遺伝子を、病気の原因となっているタンパク質など生体内で調べたい物質の遺伝子に融合させると、GFPが放つ緑色の蛍光が目印になり、目的のタンパク質が細胞内のどこに存在しどのように運ばれるのかといった挙動が一目で分かるからだ。GFPを使った蛍光マーカーの登場で、細胞生物学や分子生物学などの研究は革命的に進歩した。

下村博士の発見には、「偶然のひらめき」が寄与していた。博士は1961年夏、留学先の米プリンストン大からシアトル北部の臨海実験所へ向かった。沿岸を大量に漂う「オワンクラゲ」が放つ光の謎を突き止めるためだった。ホタルに代表される生物の発光現象は当時、ルシフェリンという発光物質と酵素の反応で起きると考えられていた。このため無数のクラゲを網で捕獲し、体内のルシフェリンを抽出しようと実験を繰り返したが、失敗の連続だった。発光物質を取り出すためには、光らない状態にしておく必要がある。光った後では、その物質は分解されてしまうからだ。「なぜ光るのか。どうすれば抑えられるのか」。ボートをこいで海に出た。寝そべって考えていると、突然ひらめいた。「pHが影響するのではないか」。

実験したところ、抽出溶液を酸性(pH4)にすると光らなくなることが判明。ようやく打開策を見つけて溶液を流しに捨てた瞬間、「流しの中がバーッと爆発的に青く光った」。海水中のカルシウムイオンと反応して強く光ったのだ。この物質はオワンクラゲの学名にちなんで「イクオリン」と命名。その後も毎年夏、家族総出で5万匹以上のクラゲを捕り続け、17年かけてその発光メカニズムを解明した。そのおかげで、付近の沿岸からはクラゲが一匹もいなくなったといわれる。

「イクオリン」と同じように「何かを探しているときに、価値ある何か別のものを見つける」という事例が科学の発見には数多く存在する。ドイツのビュルツブルグ大学で物理学を教えるウィルヘルム・レントゲン教授が「X線」を発見したのは、他の科学者が報告した陰極線の研究に彼が没頭している中だった。ロンドンの聖メアリー病院の接種部門にに勤める細菌学者のアレクサンダー・フレミング博士が「ペニシリン」を発見したのも、まったくの偶然だった。夏休みの間、彼の実験机の上に放置されていた培養皿は、雑菌に汚染されて培養していた細菌が死滅していた。培養皿の中身を捨てようとしたとき「人類を苦しめる最も悪質な細菌には強力な破壊力を持つものの、動物に対しては無害の殺菌剤」は見つけられたのである。

科学の進歩に寄与した大発見の中には、このように偶発的な出来事によって生まれたものは枚挙にいとまがない。一見、「幸運な出来事」で片づけられてしまいがちであるが、共通して偶然と幸運以外に大きな役割を果たしているのが、勤勉、機敏、忍耐というキーワードである。このような事象をもたらす能力のことを「セレンディピティ(serendipity:偶察力)」と呼び、長い間「その人に特別に備わった能力」であると考えられてきた。しかし昨今では「発見・創造の能力は、偶然を最大限に活かす能力であり、感性を研ぎ澄まし、察知力を養えば偶然は偶然でなくなる」と考えられている。

「気づき」から「発見・創造」に至る過程は、それぞれの人に適した独自の展開方法があると思われるが、ひとつの例示的なプロセスとして「気づく感動」「観察と記録」「ネーミング」「課題の認識」「連想」「情報交換(編集)」があり、これを手軽に「ファイリング」しておくことが求められる。その後、「拡大」「仮説」「検証」が「発見」につながり、その応用が「創造」となる。既存社会の中の個人としては、これらの作業は不可能ではないとしても相当ハードルが高い苦行である。

しかし、信頼と規範によって支えられている地域SNSによるコミュニケーションでは、ブログやコミュニティというツールが「気づく感動」「観察と記録」「ネーミング」「課題の認識」「連想」「情報交換(編集)」というプロセスの多くの部分を補完することができ、また(情報の抽出に難はあるとしても)自動的に「ファイリング」も行われている。これらが共有情報として信頼できる他者に提供されることにより、「拡大」「仮説」「検証」という段階を短時間で効果的に実現することができ、リアルな社会で協働することによって「発見」から「創造」につなぐことができる。

研ぎ澄まされた感性とたゆまぬ努力の結果してまれに現れるセレンディピティの成果を、より多くの人々が享受できるようになれば、個人や科学のみならず社会の発展に大きく寄与することになるに違いない。地域SNSは、近未来には「セレンディピティ増幅装置」としての役割を担っているかも知れない。

【参考文献】
澤泉重一(2002)『偶然からモノを見つけだす能力』,角川書店
Gシャピロ,新関よう一(1993)『創造的発見と偶然』,東京化学同人

閲覧数4,270 カテゴリ日記 コメント2 投稿日時2008/12/15 13:03
公開範囲外部公開
コメント(2)
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  • 2008/12/23 12:54
    何気ない一言が、凄い発見のヒントになるかもしれませんね。
    私は、コメントに一言よけな事を書くくせがあります。
    これは、自分自身へのヒントを期待している面がかなりあります。
    人の出会いも偶発性があります。
    旅先でも少しだけよけいなところへ足をのばすようにしております。
    このサイトにいるのもかなりの偶然が重なっております。
    新たな出会いを期待しております。
    また、ピントはずれのお話になりました。
    次項有
  • 2008/12/23 13:18
    > Fーオバマさん
    偶発的な出来事を偶察的に活かすことができるのは、単に情報を注意深く観察しているだけではダメで、常に出会いや情報の発信者となりつつチャンスを引き込むことが大切なんだろうと思います。増幅装置としての地域SNSの中では、その取り組みの違いがより顕著に出てくるかも知れませんね。
    次項有
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