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2009年01月19日(月) 

何ごとによらず、ものを一面的に見ていると大事なことを見失うことがあります。


政治でも、小泉政権がとった政策は「古い政治に風穴を開ける」という意味では大きな効果があったと言えますが、その半面でさまざまな負の効果を生みました。規制緩和によって自由競争をさせ、日本経済の底上げを狙ったわけですが、強いもの勝ち、弱い者苛めの世の中をつくってしまいました。「日本全体が豊かになれば国民全体が豊かになる」という妄想の下に、強引に政策を推進したわけですが、国民の所得格差は広がる一方です。

なぜなら、勝ち残った企業でもその多くは儲けの大半を株主への配当と内部留保に回し、労働者や消費者に分配することをしなかったからです。

企業倫理の欠如した企業が多い日本の社会で、過度な規制緩和がどういう結果を生むかということに気がつかなかった、と言うより目をつぶった小泉純一郎という人は、多面的にものごとを把握することができない人だったのです。


技術者も多面的にものを見るということは大事なことです。僕は土木のことしかよく知りませんが、他の分野でも同じでしょう。『多面的にものを見る』と言っても、いろいろな側面を別々に見ていては駄目で、『ものを斜めから見る』 つまり立体的にものを見ることによって、はじめて全体像を見ることができると言えるでしょう。

設計図は平面図、側面図(道路の場合は縦断面図)、断面図で表わされるのが普通ですが、それぞれの図面を個別に描くのではなく、その前に全体像を把握しておく必要があるのです。


下の写真は大阪港の一角に架かっている橋梁です。中央スパン250mは、桁橋としては日本最大級の橋で、すばらしい設計だと思います。

 


しかし下の写真のように、見る角度によっては極めて不格好な姿になってしまいます。このように折れ曲がって見えるのは、こう配の大きさ、こう配の変化点(この場合は一番高いところ)に挿入される曲線(「縦断曲線」という)の大きさ、平面的な曲線の半径と曲線長など、「線形」と呼ばれるさまざまな要素が組み合わさった結果なのです。

こういう線形の場合は、遠くから眺めたときの景観だけでなく、橋を走行する自動車から見ても折れ曲がって見え、運転者に不安感を与えます。



それではどうすればよいかということですが、この紙面でそれを説明するのは難しいのですが、最も基本的なことを言えば、設計に用いる各数値をできるだけ大きくとるということです。

とかく設計者は、設計基準の最小値を満足していればよいと考えがちです。しかし各要素が重なったときには思わぬ不都合が生じることがあるのです。この場合のように不格好だったり運転者に不安感を与えるという視覚的な問題のほかに、急勾配と急カーブが重なったときには運転技術(ハンドル操作など)にも影響を及ぼす危険性も考えられます。

設計者は、各要素をそれぞれ個別に考えるのではなく、それらが組み合わさったときにどうなるかを考える必要がある、つまり道路や橋を「斜めから見て」不都合のないよう、各要素の数値を決める必要があるのです。


その意味で、この橋の場合は下の図のようにすれば、上の写真のような状態はかなりの程度防ぐことができたのではないかと思うのです。

 


平面図は手持ちの地図からとったもので正確な図ではないと思うし、縦断面図は分かりやすくするためにタテ・ヨコの縮尺を変えてあります。

この図で言いたいことは、平面のカーブを縦断曲線の位置と合わせることと縦断曲線を可能な限り大きくとるによって視覚的にスムーズな線形になるということです。

とは言え、道路や橋は何もない宇宙空間に建設するものではありません。地形や建造物はもとより、この橋の場合は下を通る大型船舶の航路などといった各種条件をクリアしなければなりません。例えば平面図の青の線にした場合には用地買収が必要になるし、縦断図の緑の線にした場合には橋の高さが低くなって航路の高さが保てず、航路の高さを保とうとすればこう配をきつくするか、橋の長さを延ばさなければならないといった問題が生じます。

設計者はこうした条件にがんじがらめになって、黒の線のようにしたのでしょう。しかし、ものを斜めから見る訓練ができていれば、もう少し考えようがあったのではないかと思うのです。


閲覧数2,375 カテゴリ連載読物 コメント6 投稿日時2009/01/19 07:34
公開範囲外部公開
コメント(6)
時系列表示返信表示日付順
  • 2009/01/19 08:56
    すぶたさん
    なるほど。
    確かに運転者に不安を与えるような設計では
    いけませんねぇ。

    ものを斜めからみる。
    橋だけだなく、いろんなものにあてはまりそうです。
    次項有
  • 2009/01/19 13:42
    面白い事例ですね。
    非常に参考になりました。

    物事を色々な見方で考えること、忘れていました。
    次項有
  • 2009/01/19 16:00
    ちかさん
    橋が折れてる!
    確かにコワイですね
    次項有
  • 2009/01/19 20:29
    鉛筆jamjamさん
    > すぶたさん

    道路の設計で大事なことは、利用者の立場に立った道路がつくられているかどうかということです。運転者に不安を与えるような道路や、スピードを出したくなるような道路はつくってはならないと僕は思います。

    >橋だけだなく、いろんなものにあてはまりそうです。
    上に述べた政治もそうですが、経済学、社会学、教育学、文学、歴史学、考古学、医学、理学、工学等々、芸術を除くすべての分野で必要だと言ってもよいでしょう。
    世界的な発明・発見は、ものごとを斜めに見たからこそ生まれ得たのだと思います。
    次項有
  • 2009/01/19 20:31
    鉛筆jamjamさん
    > まぁくんさん

    僕は「へそ曲がり」なんで、ひとが考えつかないことばかりを探しているんですよ。(笑)
    次項有
  • 2009/01/19 20:37
    鉛筆jamjamさん
    > ちかさん

    ちょっと写真がきつすぎたかな?(笑)
    でもね、もう30度ほど右から見れば、こんなものではありませんよ。橋が途中でなくなっているように見えますから。
    でも安心してください。この橋は決して折れるようなことはありませんから。
    次項有
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