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2009年02月15日(日) 
ネットワークという目に見えぬ「つながり」に魅せられた研究者が、組織論、経営学、社会学を超えて、統計物理、工学、医学などにつらなり、共同研究を開始しつつある。この10年間にネットワーク分析の分野に生じた最も大きな変化は、ネットワークが比喩的概念から、より厳密な意味での分析概念に変化したことである。90年代には、人々や組織の間に何らかのつながりや相互作用がありさえすれば、そこに信頼や連帯といった正の効果が生まれることを、期待なかばで想定した論調の文献が多々見られたが、隠喩(メタファー)でしかなかった「ネットワーク」が、数理社会学者や理工系研究者の参入によって、より具体的に計測できる概念となったからだ。

ソーシャル・キャピタルをはじめネットワークに関わる多くの概念が、比喩以上になりにくかった理由は、社会的相互作用が規定する関係は、基本的に不可視だからである。物理的な実体のある「関係」は扱いやすいが、社会的相互作用のネットワークはモノではないだけに、その有り様、型、効果についての議論は難しかった。ここに、数値化された物理的な関係構造の特徴(特微量)を堅実に測定でき、非人間的でつながりが見えるネットワークを分析対象とする理工系の研究者が貢献した。

純粋につながりの「型」「構造」だけに注目しその特性を数学的に抽出する研究に対し、人や組織のネットワーク研究では、紐帯の定義さえ多義的になりやすく曖昧さから逃れられない。また、理工系の研究者が、数十万、数百万のノードを持つ大規模ネットワークを扱えるのに対して、社会科学系では数十から多くても1000程度の小規模ネットワークしか扱うことができなかった。90年代後半のワッツやバラバシの登場以降、理工系のネットワーク研究者は、関係特微量の計量を著しく発展させ、社会科学系にそれらを還流させることにより、従来の研究を包含しつつそれを超えた研究領域を作り上げようとしている。

しかし、ネットワークの現場で実証的な社会実験や参与観察を続ける研究者にとって、定量的に処理されたデータによる分析は重要なの知見を数多く提供してくれるものの、人々や組織の間のつながりが生みだす効果による具体のネットワーク上のふるまいを包括的に説明するには至らない。そこには、従来の分析手法に加えて、人文・社会系の分野が得意としてきた文字資料や図像資料などをデータとして活用し、ネットワークに蓄積された非数値的な知、伝承や習慣として蓄積されている知の持つ意味を明らかにすることが必要とされる。

「ことに複合的な地域環境問題を抱える現在の日本において、地域ネットワークの研究を行うには、異なる専門性をもつ研究者が、共通の課題と関心のもとに、分散知を持ちよることが大切である」「学際研究、学融合、異分野交流ということが求められてしばらく経つが、単に異なる専門の者が集まるのみでは、互いの学問方法論の違いが目につくだけで、相互理解が進むどころか不信感が募るばかりである」(岡田,2008)という。筆者は、日本学術振興会の人文・社会科学振興プロジェクト「地域ネットワークの継承と再生」に研究メンバーの一員として加わることによって、環境学、哲学、文化人類学、農業土木、農業計画、地域経済、地域福祉、地域行政、会計学、統計学および地域行政の担当者らと、それぞれの専門的知識を活かし協働することによって、人文・社会・自然科学・社会科学の旧来の壁を越え融合的な集合知が見いだせることを経験をした。地域SNS「ひょこむ」の社会実験装置としての成功は、これまでの研究手法の弊害を超えた、この研究基盤が大きく寄与している。

【参考文献】
安田雪「ネットワーク分析をめぐる海外の動向」『組織科学 vol.40 No.3』白桃書房,2007,pp.112-113
桑子敏雄・岡田真美子「日本文化の空間学」東進堂,2008,p.xiii,pp.134-137

閲覧数1,781 カテゴリロンブン コメント0 投稿日時2009/02/15 08:22
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