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2009年05月13日(水) 
●法と掟-コミュニティ・ソリューションを支える地域の智慧

 「法」(ほう)は、道徳などとは区別される社会規範の一種で、一般的には一定の行為を命令・禁止したり、違反したときに強制的な制裁(刑罰、損害賠償など)を課したり、裁判で適用される規範などという機能をもつものである。通常はその時代の為政者や権力者(の都合)によって制定され、住民は法を遵守することを義務として負わされていた。

 これに対して「掟」(おきて)は、村落社会における取り決めや結束の固い集団における決まりごとを指す。違反者に対しては、共同絶交・集団からの追放などの処分が科されるので閉鎖的で陰湿なイメージを与えることが多い。しかし、掟の違反の処罰中最も重いものは「仲間から外す」というもので、村八分(共同慣行中、火事と葬式の2つのみは手伝うがあとは一緒にしない)もその一種であり、処分を受けた者が復帰することも少なくなかったという。違反に対する制裁というより、実質的には地域社会に対してグループ内部の統制をとる為に必要な抑止装置としての役割を果たしてきた。また、「法の前に平等」という近代法の公平性についても、掟は同等の概念を持っていた。

 日本の村落集合体における掟の生成プロセスは非常に興味深い。民俗学者の宮本常一らの研究によると、村には「帳箱」(ちょうばこ)という施錠された古文書保管箱があり、複数のリーダー(村長)がその鍵を共同管理して大切にしていた。帳箱には、村の決まり事を書き留めた「掟帳」(おきてちょう)が保管されており、村落の寄り合いで必要になったときにだけ、村長たちの合意によって戸主たる村人たちに提示されていた。

 村の中で決め事ができた時は、場合によってはすべての寄り合い構成員が納得できるまで何日もかけて、さまざまに議論を行い、(多くは村長の計らいで)コンセンサスが得られると、決め事として掟帳に書き加えられていった。すなわち「掟」とは、お上から守ることを義務づけられた「法」とは違い、時代を超えて村落集合体を維持するために、自らが自分たちに課した大切な「契り」であったと言える。

 また「掟」の特徴は、最初から想定されて決まっていたのではなく、不都合が起こってから、その時の構成員の合議によって民主的に決定されてきたことである。時代が変わっても掟帳が追記されることで継続していることは、そこにはいかに重要な案件についてのみ記載されていて、掟にある内容は決して違えてはならない事項のみであったことを示唆している。

 慣習法から近代法へと急速に移り変わる中で、「掟」は「しがらみ」と同意化され、そのプロセスに内包する民主的な知恵は忘れ去られてしまっている。悪意のある人間にとって「法」は網の目を潜るための学習資料であり、法に触れなければ間違っていないという謝った考えさえ違和感を感じなくなっている。善なる関係者は契約書すら読まないから、不利益を被っても自己責任だと責められる。個人の積極的自由が優先される社会ならではの現象といえるだろう。

 これに対して「掟」には、「義務」ではなく「使命」という言葉が大変よく似合う。自分たちの所属するグループ全体の利益を守り育てるという帰属意識がその基盤にあり、「掟」はそれを維持するための「必然要項」なのである。当然、掟を破ったものについては厳しい罰則が集合体から科せられるが、その段階に至るまではさまざまな改悛(かいしゅん)への助力がある。また、地域社会に復帰するための方法も用意されていることを考えると「掟」の持つ先進性に学ぶところは多い。

 地域SNSの運用にあたっては、最初から起こりうるトラブルを予見して多くの禁止事項を「規則」や「規約」として準備するのは好ましくない。最初は、必要最小限の約束事だけを決めておいて、トラブルが発生する都度できる限り民主的な方法によって対処方法を検討し、必要なものは約束事に追加するという「掟」生成のプロセスを導入することが望ましい。これによって、比較的小さな社会単位である地域SNSの中に、慣習に近い形でネットワークを維持するための規範が浸透し、帰属意識や共働意欲が増進することで、コミュニティ・ソリューションの潜在しているパワーを引き出すことが可能になるのではないかと考えられる。

閲覧数1,679 カテゴリロンブン コメント4 投稿日時2009/05/13 14:57
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