先週、音楽界に大きなニュースが入った。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで、日本人初の優勝者が出たというニュースである。優勝したのは辻井伸行さん（２０）で、彼は全盲だという。

僕はこのニュースを聞いて、同じ日本人として嬉しく、また誇らしく思ったが、ちょっと複雑な気持ちになった。それは、どの報道も彼を紹介するのに、「全盲のピアニスト」あるいは「盲目のピアニスト」と言っているからである。

もちろん、大きなハンデキャップを背負っての快挙であるから大いに讃えるべきだと思うが、報道がそれを強調し過ぎるのは、本人にとってはありがたくないのではないかと思うのである。

彼はコンクールでは、全盲の人であることよりピアニストであることの方が大きな意味をもっていただろうからである。

われわれは、自分より大きなハンデキャップを持った人に対して、ともすれば同情や憐みの念をもって見てしまう。そういう人を差別してきた昔の社会に比べれば進歩したと言えるかもしれないが、しかし相変わらず「違う人たち」という意識は消えてはいない。つまり、健常者との間に大きなバリア=障壁が存在するのである。

バリア・フリーは、道路や建物などの施設での物理的なバリアを取り除くことだけではない。その前に、われわれの意識、つまり精神的な面でのバリアを取り除くことによってこそ、真の意味のバリア・フリー社会をつくることができるのではないだろうか。精神的なバリア・フリーが生まれれば、自然と物理的なバリアも取り除かれるからである。