ひとは心の目指すところに向かって生きているのだ、と思うようになった。心の向かうところが志であり、それが果たされるのであれば、命を絶たれることも恐ろしくはない。 (本書P352より)
『蜩の記』(葉室麟・著/祥伝社文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。 手許に置きたい一冊。日本人の心をふるわす傑作時代小説!
十年後の八月八日を切腹する日と期限を切って家譜編纂を命ぜられた戸田秋谷の至った境地に感銘を受けた。いつかやってくる死ではなく、その日には必ず死なねばならないと覚悟したとき、秋谷には常人につきまとう迷いが無くなったのではないか。常住死身の境地、まさに武士道とは死ぬことと見つけたりである。いくら命があっても志が無ければ、それはただ生きているだけの抜け殻である。またその生き方に矜持が無ければ美しくない。物語とは云え、一人の武士(もののふ)の生き方に心が震えた。 直木賞授賞に異議ありません。文句なしの名著です。
|