「追い掛けなくていいんですかい?」 寺男が心配そうに言った。 「父っつぁん、おいらは振られたんだぜ」 「なあに、まだ脈はありますよ。あの娘は泣きながら走っていきましたぜ」 「・・・・・・・・・・」 「さ、早く・・・・・」 寺男は銀次をせかした。おせっかいな奴だと思ったが悪い気持ちは持たなかった。
『泣きの銀次 / 宇江佐真理(著)』(講談社文庫)を読みました。 背表紙の紹介文を引きます。 誰がお菊を殺したんでェ。最愛の妹の命を奪った下手人を追って、大店の若旦那の地位を捨てた、人呼んで「泣きの銀次」。若き岡っ引きは、物言わぬ死体の声を聞いて涙する。お侠(きゃん)な娘、お芳の健気な想いを背に受けて、めざす敵は果たして討てるのか?鮮やかな筆が冴えわたる女流時代小説作家の人情捕物帳。 大店の若旦那の座を捨て、岡っ引きになった銀次は、はたして妹の敵を討てるか? この小説は捕物帳にあらず。極上のラヴ・ストーリーです。
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