「武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す。これが人の世か。ならばわしはいやじゃ。わしだけはいやじゃ」 強き者が強きを呼んで果てしなく強さを増していく一方で、弱き者は際限なく虐げられ、踏みつけにされ、一片の誇りを持つことさえも許されない。小才のきく者だけがくるくると回る頭でうまく立ち回り、人がましい顔で幅をきかす。ならば無能で、人が好く、愚直なだけが取り柄の者は、踏み台となったまま死ねというのか。 「それが世の習いと申すなら、このわしはゆるさん」 長親は決然といい放った。その瞬間、成田家臣団は雷に打たれたがごとく一斉に武者面をあげ、戦士の目をぎらりと輝かせた。 (本書 上巻 P185より抜粋)
『のぼうの城』(和田竜/著・小学館文庫)を読みました。 冒頭の一節にさしかかったとき、私の全身に鳥肌が立ちました。私の心がボッと炎と燃えた気がしました。何かしら熱いものがこみ上げ「ウォー」と雄叫びをあげんばかりに激したのです。この瞬間、私はこの物語の主人公・のぼう様(成田長親)にのぼせ上がったと言えましょう。
裏表紙の紹介文を引きます。
〈上巻〉 戦国期、天下統一を目前に控えた豊臣秀吉は関東の雄・北条家に大軍を投じた。そのなかに支城、武州・忍城があった。周囲を湖で取り囲まれた「浮城」の異名を持つ難攻不落の城である。秀吉方約二万の大軍を指揮した石田三成の軍勢に対して、その数、僅か五百。城代・成田長親は、領民たちに木偶の坊から取った「のぼう様」などと呼ばれても泰然としている御仁。武・智・仁で統率する、従来の武将とはおよそ異なるが、なぜか領民の人心を掌握していた。従来の武将とは異なる新しい英傑像を提示した四十万部突破、本屋大賞二位の戦国エンターテインメント小説!
〈下巻〉 「戦いまする」
表紙の写真がこれです。 右が「のぼう様」こと忍城・城代・成田長親、左が石田治部少輔三成。 装画は漫画家・オノ・ナツメ氏です。 こうして並べると両雄のキャラクターが際立ちます。 理知的でありながら誇り高く熱い男、石田三成に対し、 「でくのぼう」を略し「のぼう様」などと呼ばわれ、何をやっても不器用な大男、成田長親。 この両雄が相まみえた戦国史に残る「忍城水攻め」。 武士が武士であった時代、男が男であった時代に、時と場所を得た強者どもが存分に戦う。 そのような男どもに囲まれた男勝りの甲斐姫の恋。 「のぼう様」の戦に馳せ参じ、命を賭す百姓どもは男のみならず、女、子どもまで。 登場人物の生き生きとした様に心躍らせ、熱き思いに涙し、戦国の荒ぶる心に昂進する自分がいました。 私の大好きな本に加わった一冊でした。
(追記) おけいどんさんが「【ブックレビュー】この本よろしで!お薦めします♪♪ 」コミュでご紹介下さってから一年以上経ってやっと読むことが出来ました。文庫化を待っていたのですが、もっと早く読めばよかったと思います。素晴らしい本に出逢うきっかけを作って下さったことに心から感謝します。
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