先日、カーナビ取り付けのためにお預かりした車。 助手席用エアバッグが開いて出てくるところにドリンクホルダーが置かれていました。 エアバッグが開く瞬間をご覧になった方はそういらっしゃらないと思います。 かなりの衝撃を伴う事故でも起こさない限り見る事はないのですから。 現在走行している自動車は、エアバッグを使わずに寿命が来て廃車になるものがほとんどです。 さてこのエアバッグ、センサーが事故の衝撃を受けてから完全に開くまでの時間、わずか約 0.03秒。 瞬きは 約0.2秒ですから開いているところを見る事ができるのは動体視力の発達したスポーツ選手くらいでしょうか。 ほんの一瞬です。 ハンドルに取り付けてあるエアバッグの膨らむ部分、"バッグ"と呼ぶのですが、これはお客さんに出すちょっと厚めの座布団の 1.5倍くらいの容量があります。 この"バッグ"をガスを発生させて一瞬のうちに膨らませます。 乗員に向う面の反対側、つまりフロントガラス側ですが、通常直径 30~40mm位のエア抜き穴が2つ開けてあります。 座布団より少し大きめの布に大きな穴が2つ。膨らまそうと息を吹き込んでも膨らみません。 この穴からあっという間にガスを排出して萎みます。 最大容量に膨らんだ直後、前方に倒れこんだ頭部、及び上半身を受け止め、エア抜き穴からガスを排出する事により衝撃を和らげるのです。 このとき、"バッグ"が膨らみきるときにとても大きな音が発生します。 子供の頃に新聞紙で"かみでっぽう"を作って鳴らして遊びませんでしたか? あの新聞紙1枚で作った"かみでっぽう"でさえ大きな音がしますね。 エアバッグの"バッグ"をほんの一瞬で膨らませるのです。どんな大きな音が発生するのか想像がつくでしょう。 爆竹どころの騒ぎじゃありません。 実際に事故を起こした時には、乗員はパニック状態です。ブレーキがロックしてスキール音が発生、クルマを構成する金属はひしゃげて悲鳴を上げる。 そんな中での一瞬の音ですから、事故を起こした当人にはよく分からないようです。(私も経験した事はありません) 狭い室内でとても大きな音が発生するので鼓膜が破れる事があります。エアバッグなしでハンドルに顔を打ち付けるよりはよっぽどましですが...。 シートベルトをしないまま車に乗車して事故を起こしたとします。 体ごと頭が前方に引っ張られ、エアバッグが作動して膨らんでいる最中にぶつかった...。 それはもうものすごい衝撃です。 浮き輪で殴られるなんて生易しい衝撃ではありません。 死に至る事もあるのです。 以前、TV番組の中で、クルマの前部に丸太で衝撃を与え、エアバッグを開くと言う企画がありましたが、ダウンタウンの松本人志氏が顔面に大怪我をした事があります。 エアバッグは万能ではありません。シートベルトの補助でしかありません。 事故が発生したとき、車の潰れ方、乗員の前方への倒れこみ、エアバッグが開いてから萎むまでの時間を計算し、実験し、検証を重ねて自動車に取り付けてあるのです。 火は小さければ料理に使えます。大きな火は火事になります。 包丁はまな板の上で料理に使えます。振り回せば人を殺傷します。 エアバッグも使い方を誤れば凶器にもなるのです。 クルマに乗るときにはシートベルトをお忘れなく。 尚、助手席にエアバッグがある車は、チャイルドシートを後ろ向きに取り付けてはいけません。 理由はお分かりになりますね。 さて、冒頭のエアバッグが開いて出てくるところにドリンクホルダーが置いてある自動車。 エアバッグが開いた途端にドリンクホルダーが凄まじい勢いで飛ぶ事になります。ドリンクホルダーほどでなくても、たとえば ほんの1グラムの1円玉があっただけでも凶器に変身します。 今までの話でこれがどんなに危険なことかお分かりの事と思います。 件の自動車、営業マンを通してユーザーさんに危険性をお話ししたのは言うまでもありません。 (こんな話をしたのは、何も皆さんを脅かそうと思っての事ではありませんよ。正しく使ってください。) |