このまえの三連休、梅の<土用干し>をしました。 6月の中ごろ、和歌山県の友人にお勧めを送ってもらった梅は、 そのままかじりつきたくなるような、 とってもフルーティな香りを放っていました。 その晩のうちに塩をまぶして、3キロの重石をやると、 4日ほどできれいに澄んだ水が上がってきました。 重石をはずすと、すんだ水の中にいくぶん柔らかくなった青い梅が浮かんくる。 塩以外になにも足さないこの壺に湧いてきた水は すべて梅の実がもっていたもの。 “白梅酢”という、この液体に感激しました。 6月末の土曜。もうお隣は福知山市、丹波・市島にある美和地区を訪れました。http://web.pref.hyogo.jp/contents/000072858.pdf 【地図参照】 地区の小学校、交番、郵便局、保育園・幼稚園などが集まる酒梨集落にあったJA支所が廃止されたため、地域の人々が、JAスーパーを“百貨店”として復活させ、旧JA支所にコミュニティ・カフェをつくって、小学校や保育園の送り迎えのお母さんや高齢者の方々が寄り合える場所をもうけていました。 そんな地区の方々といろいろとお話し、“喫茶”をでると、 “百貨店”の店先で、1株120円、“赤しそ”の束を見つけました。 翌日、下洗いした3株のしその葉を、ボールに取り分けた白梅酢の中で揉んであげると、手の中からみるみる鮮やかな赤色がほとばしる。 白梅酢が“赤”梅酢に変わっていきました。 そして、また、ひと月。重石をやって漬け込みました。 白梅酢はウィスキー瓶に半分ほど、とりおきました。 殺菌力が強くて、食あたりのクスリや煮魚の臭い消しにつかうということ。 たしかに、コップの水に2、3滴たらして呑むとシッカリとした存在感。これなら効きそうです。 赤梅酢に漬けたときには青々としていた梅の実は、ひと月がたって、果肉のなかまで真っ赤になっていました。 そして、「梅雨が明けたら晴天の続きそうな日をみはからって、赤梅酢からとりだした梅をざるやすだれの上にならべ、三昼夜干します。 日中はギラギラの太陽の光と熱をたっぷり吸収させ、夜は夜露に当てます。」 お漬けものの本に書いてあるとおりに、<土用干し>をしたわけです。 ホントに、、本に書かれたとおりの天気がつづきました。 三日間、何度か梅酢をくぐりながら、強い日射しを浴びたものを食してみると、 しょっぱいだけの梅干しの味が素朴な記憶を思い起こさせます。 小学校のとき、たぶん東京の練馬に住んでいた。。。 桜台6丁目の友だちの家にあそびに行って、さんざん走り回ったあと、芝生の庭に干してあった、いまよりずっと塩分たっぷりの<梅干し>を一つコソッとつまんだ。 とってもしょっぱかった。でも元気になった。 日本の夏。この厳しい暑さも、少なくとも梅干しには大切なものです。 送ってもらった和歌山県JAみなべいなみの南高梅は五キロ。 それにお塩と赤しそ、初めてだから、お漬物の壺、重石、落とし蓋、干すためのザルをそろえました。 おいしく食べられるのは年明けというから、半年ほどの月日が必要となります。 加工食品は手間も暇も、そしてお金もかかります。 ************************* いまから7年ほど前、“誠実な食品”という本で、添加物のカリスマといわれた方のコラムを読みました。 「スーパー特売用のミートボールを開発した。 お母さんが買うのでこどもが好きな味でないとダメ。こどもはソースとケチャップが混ざり合った味が好き。ふんわり柔らかでジューシーな味だ。 肉は業界用語でドローというペースト状のもの。牛の骨に高圧水流を当てると、ミンチもならない、でも牛百パーセントの肉が削り取られる。 これに同じようなチキンや内臓肉を加える。 このドローを組織状大豆蛋白で増量する。 ただ牛肉は味がないので、フレーバーを入れる。 歯ざわりをなめらかに加工でんぷんや油を入れる。結着剤を入れる。 色を良くするため着色剤を入れ、色あせを防ぐため酸化防止剤を入れる。 保存料や肉エキス、化学調味料も入れる。 もちろんソースやケチャップに本物を使ったら採算が合わない。 氷酢酸をカラメルで黒くし、グルタミン酸で味を調えたのがソース。 トマトペーストに酸味料、添加物で味の角を取って、とろみつけたのがケチャップ。 全部で二十種類以上添加物を駆使し、 常温の陳列棚に並べることのできる特売用の安いミートボールを完成させた。 私たちはプロだ。 これが実際、子どもにとってはホントにおいしい。 現にこの会社はこれだけでビルが建ったといわれるほど、売れた。 それから半年くらいたったある休日、うちの末っ子の誕生会があった。 食卓の真ん中にはきれいに飾った山盛りのミートボール。 娘の横に座って、そのミートボールをほお張ったとたん、わたしは凍り付いた。 仕事柄、食品にとけこんでいるものでも100種類以上の添加物の見分けがつく、わたしの舌が警報を鳴らしている。 思わず妻に叫んだ。「このミートボールどこで買ったの!」 袋を見ると、わたしが開発したものだった。 あの子が、リン酸塩を食べた。タール系色素102号も食べた。 保存料のソルビン酸カリウムも、、、ぞっとした。 なんで今まで、うちの子どもの口に入ると言うことを考えなかったのか。 翌日、会社を辞めた。 漬物、練り物、たらこが三悪だ。 どれにも信じられないくらいの添加物や着色料が使われている。」 ************************* 売り物ならば、家使いに比べて、人件費もいる、流通費用がいる、小売店に並んだものがすべて売れるわけではない。 私たちは、ふだん食べる加工食品にそれだけのコストを払っているでしょうか。 そんな、こんなで、時たま、自分でハムやベーコンをつくったりします。結構お金がかかるので、家計から離れたお遊び、お小遣いを使っての趣味です。やっぱり塩漬けに1週間とか、手間暇がかかります。 お味は? もちろん、塩味が勝った、よく言えば、素朴な味。 とても市販のものにはかないません。 「だって、何本もの注射針で味のエキスを注入された水ぶくれのハムじゃないんだもん。」なんて、 僕は、自分の技術の未熟さを棚に上げて、うそぶく。 もしかしたら、加工食品の味なんて、今売られているような旨みたっぷりじゃなかったのではないのか、、とも考えます。 ************************* その三連休の初日、土曜の朝、<土用干し>をおえて、いつものメンバーのテニスに出かけました。 いまから考えれば、カラダはすでに悲鳴をあげていたのかもしれない。この1週間とても腰が重く、なんとか乗り切った。とにかく平日にため込んだカラダのなかの悪いものを早く汗で出してしまいたかったのだと思います。 いつもより念入りにストレッチをしたのに。最初のストロークを5分ほどしたところで、腰に激痛が走り、コートから起きあがれなくなってしまいました。 “ぎっくり腰”。 そのまま、寝たきりの生活になり、その後の梅干し作業は、奥さんのお世話になりました。 さらさら、サラサラと、季節や月日が、僕たちのまわりを通り過ぎていって終う。 でも日本の季節は、春が来て、夏がちゃんとあって、秋が訪れ、確固たる冬になる。 なにかしら、刻のよすがをもちたいと思っています。 あおく晴れ渡り、セミの音とともにジリジリ照りつける、夏の日差しを少し肌に感じながら、 日がな、腰の痛みをかばいながら、横エビ型になって寝っ転がっている。 南向きの庭に広げた<梅干し>を赤梅酢にくぐらせている奥さんの姿と、 その2キロ先の裏から見る須磨アルプスやその頂の向こう、たぶん須磨浦あたりに沸き上がる入道雲。 そんなニュータウンの風景が眺めてとれる。 そして、眼底を通じて、ゆっくりではあるがたしかな映像として脳裏に焼き付いていく。 僕にとっての、“2008年 今年の夏の風景”は、これで決まりと思います。 <梅干し>は、この三日間を終え、 焼酎の霧を吹きかけられて、紫蘇の葉と一緒に、また瓶のなかに詰め込まれました。 秋の終わり頃、どんな味になっているのか。 そして残った赤梅酢は、これからも生姜漬けなどに活躍してもらいます。 お漬けものの本には 「ほんとに味が出てくるのはつぎの年が明けてからです。」 と書いてありました。 一つ、秋から冬の楽しみが増えました。 |