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2014年05月30日(金) 
第十五話「極点社会化から地域を守る経済循環」

「この仕組みってレストランじゃなくてはダメなんでしょうか?」藤田は申し訳けなさそうに語り始めた。「わたし、主人と一緒に子どもたちに英語を教えているんですが、例えば体験入学のクーポンなんか発行できたら、たくさんのお母さんたちに教室の特長を知ってもらえるでしょう。それにお母さんたちにクーポンを身近に感じてもらえると、お気に入りのいいレストランを紹介してくれたり、お父さんにおねだりしてお食事に利用してもらったりするに違いないですよ」。藤田はこのシステムが飲食店だけでなく、さまざまな地域密着のビジネスで活用できることに気づいていた。その上で、住民自身が利用者になったり紹介者になったり、また発行者になったりする可能性についても指摘したのである。

地元新聞記者の土生仁巳(39)が続けた。「我が町もご多分に漏れず中心市街地の一部商店街はシャッター街になりつつありますが、実はシャッターが開かなくなっているのは商店街の店舗だけではなく、郊外幹線道路沿いでもここ数年すごい勢いで増えているんです。その多くは後継者不足や家業の衰退などによる廃業なんですが、まちの元気がどんどんと失われていることには大きな危機感があります。その意味で藤田さんの言われるように、さまざまな業種でクーポンが利用できるということは、地域全体の将来にとって絶対必要であると思います」。土生は経済部記者として毎日地域を歩き回って調べたり感じたりした実態を切々と訴えた。

地域の商店街の衰退は、一箇所で何でも揃うワンストップショッピングを提供する、郊外の大型ショッピングセンター(SC)の出現と拡大が影響していると言われている。商店街を支えていた消費者である住民は、SCにある便利さや楽しさにひかれて吸い寄せられ、徒歩圏内にある商店街から遠のき、車を使って郊外にでかけてショッピングを楽しむことが常態化した。しかしこののちは、SCがもたらしたものより更に大きなライフスタイルの変化が到来する。それがネットストアのワンストップ化だ。

1994年に米国ワシントン州でインターネット書店として開業したAmazon.com社は、2000年には日本版サイト「Amazon.co.jp」を開設、当初は書籍のみの取扱いだったが、その後、サイト利用者の利便性を向上させながら、さまざまなカテゴリーの商品を取り扱うネットストアに成長した。現在では、一社が独占的に提供するオンラインストアとしては最大規模のインターネット小売販売事業者となっている。また、2014年からは酒類の販売を始め「アマゾンに売っていないものはない」という社是が現実に近づいてきている。送料無料翌日配達何でも揃うアマゾンのビジネスによって、どこでも入手できる商品を取り扱う物販事業者は、地方だけでなく都市部でさえも大きな..いや壊滅的な打撃を受ける日が近づいている。そのあとの地域には、人間が生活するには寂しすぎるほど活力を失った空間が残るだけで、コミュニティはすでに再興できない状態になってしまっているだろう。

「住民に自らが『地域を支える』ことを意識させるのが大切なんですよ」と、中村たちを高校で指導している畑井が話し始めた。「ある商店街の理事長さんが、商店街が廃れたのは郊外型の大型商業施設が出来たからだけではなく、商店主たちが物をおけば売れるという戦後の幸せな時代の記憶をひきずって、住民に喜んでもらわないと商売は成り立たないという商いの原点を忘れてしまったからだ、といわれてます。商店と住民がお互いの必要性を確認しあい、本来の互酬的関係に気づけば、現在の膠着した状況を打ち破ることができるのではないでしょうか。そしてそれを実現する原動力が、高校生や大学生などの地域を愛する若者たちのパワーとセンスなんです」。このあと、いかに現在の教育を根本的に変えなくてはならないか、畑井が熱弁をふるいかけたところで、県の外郭団体に勤務する行司高博(46)がタイミングよく割って入った。

「このシステムだけで十分なはずはありませんが、加速度をつけて到来する極点社会化から地域を守るためには、外部へのヒト・カネ・情報の流出を止めて、地域内で循環させる仕組みと仕掛けが重要です」。行司は、長く県庁の地域づくり、情報政策、産業情報のセクションで活躍し、今年から新たに産業活性化を担う外郭団体の幹部に異動していた。人をつなぐ天才のような才能を持ち、絶対に梯子を外さない仕事ぶりから多くの人間から慕われている頼れるスーパー公務員だ。また。今回の企画に関する社会的な情報を隅から隅まで知り尽くした人材だった。「最初は飲食業をターゲットとしたスモールスタートでも、藤田さんや土生さんの発言のように、できるだけ早く段階でさまざまな分野にクーポンが適用できるよう準備をする必要があります。また、畑井さんのおっしゃる通り、未来の地域の主役である若者たちと一緒に推進することは不可欠な要素です。みなさんの智恵と経験とネットワークを結集すれば、極点社会化を逆手にとって地域を元気にすることができそうな気がしてきました」。行司は自分がつなげそうなキーパーソンやネットワークのことを、わくわくした様子で紹介した。みなは一様に、世界が一気に広がり明るくなったように感じた。

二枚目のホワイトボードも丁寧な文字でほぼいっぱいに板書(ファシリテーショングラフィックス=ファシグラ)した津川が「それでこのクーポンシステムはどこにあるんですか?」と疑問を投げかけた。高揚していた全体が一瞬時間が止まったかのような状態になったあと、全員の視線が会場隅の一点に集中した。そこには、大きな文字で「サーバ管理者」と書いた法被をまとい、缶ビールのシールを集めてもらったサーバからジョッキにビールをごきげんな様子で注ぐひとりの男の背中があった。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数1,046 カテゴリ日記 コメント0 投稿日時2014/05/30 05:47
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