G・クリムトのNuda Veritas ヌーダ ベリタス(裸の真実)(画像はクリックすると大きくなります)
モデルの頭状に書かれてあるのはシラーSchillerの詩。
「お前の行いと作品によって、
すべての人の満足を獲得することはなくとも、
よき少数のためにそれをなせ。
多数に好まれることは悪しきことなり。」
黒野訳(保証の限りにあらず)
と言う言葉を単純に真に受けているわけではないが、
作り手にとって芸術(おおざっぱな意味で)とは一般性の対極にあるものだ。
なぜならそれは限りなく差異化していく〝過程〟のことだからだ。
それは差異化し分化する過程としてある自然界へのオマージュだ。
それは生成変化する世界への声なき肯定の叫びだ。 脚注1
「言葉と言葉の間には差異しかない」とF・ソシュール(言語学)が言う。
言葉と同じように事物の、また出来事のたがいの間にある差異が、
また差異と差異との関係が、
それぞれの意味を産み出しているのだ。
ゆえに私たちの仕事は自由に差異と戯れていることにある。
そのようにして世界の意味化を試みている。
生涯を費やして、よりとらわれなくより自由になっていくことが私たちの仕事なのだ。
もし此の世に私一人しかいないのだったら言葉など必要ないように、
もし此の世に私一人だったら作品など存在し得ない。
そしてもし此の世に私一人しかいないのだったら
「私」という人格もその意識も現れるわけもないのだ。
言葉も作品も、そして私も、関係性の産物だ。脚注2
実体などどこにもない。
ならば良い関係を--
たがいの差異を、多数性を肯定する関係を探ることこそが肝心なのだ。
無数のシンギュラリティの相互作用として未来へと生成すること。脚注3
この世界という無明の中で、どんなにささやかな光であったとしても
他からの光に依らず自ら発する光で輝いていること。
それが芸術という意味作用の過程を生きる者の本望というものだ。
脚注
- 1:プルームテクトニクス(plume tectonics)によれば一つの超大陸が分裂し現在の陸地の配置が形成されている。やがて反対側で集合しまた一つの超大陸が現れるだろう。そのような変化を地球はくり返してきたのだ。長い時間をかければ大陸さえ流れ、硬い岩石さえ褶曲する。不変不動なものなどない。
- 2:依他起性(えたきしょうparatantra-svabhāva)唯識論 相対的存在、他に依存する存在。『他 に依ることの相とは何か。それは、アーラヤ識を種子とし、虚妄分別の中に包摂されてい る、もろもろの表象(が有する相)であ る。これらの諸表象によって、[欲界・色界・無色界の]全世界のあらゆるあり方や、[よき境位、悪しき境位の]あらゆる生の境位や、[胎生・卵生 などの]あらゆる生まれ方などの、すべての汚染を内に包摂する虚妄なる分別に、他に依るとの相のあることが、顕わにせられたのである(長尾雅人訳『摂大乗 論』上巻275-277頁)。』
- シンギュラリティ(singularity)1.単独性, 単一性;特異性 2.奇妙, 風変わり; 非凡, 類まれなこと 3.特異点:超密度に圧縮されブラックホールを作るとされる宇宙空間の仮説上の点.