待ちに待った「剣岳 点の記」のDVDが発売されました。 この映画の監督をされた木村大作氏は、 黒澤明監督から、思うようにカメラのピントが合わないと「大作を呼べ!」と言われる程の信頼を得ていた凄腕のカメラマンだそうです。さすがに、映像は「これぞ映画!」と言い切るだけの絶品です。 しかも、木村さんは今年齢70歳。 「剣岳 点の記」のDVD本編が素晴らしい事は言うまでもありません。 その上に、このDVDには素晴らしい特典が付いていました。 副音声を使って全編139分にわたり監督自らがこの映画に掛けた「想いの丈」を淡々とユーモアを交えて語っておられます。 これがまた、味わい深~いお話が満載です。 その中の一つをご紹介します。 この物語は地図を完成させるために、最後の未踏の地剣岳山頂に三角点という標識を立てる仕事を任された人々の悪戦苦闘のお話です。 木村監督は、悪戦苦闘の末に「やっと登頂出来る」というシーンを撮影されていません。 映画では、誰が先頭を切って初登頂するかで一悶着あった後、突然「皆で山頂で佇む」シーンに変わります。 10億円という製作費を出してくれた商社・新聞社・放送局や様々な協力を頂いた自治体等から「この感動を観客の皆さんに伝えるために『世紀の初登頂』のシーンを是非入れて欲しい!」と詰め寄られたら、その申し入れを断り切れるかどうか分からない。 それなら、撮影しなければいい! 興行成績を考えれば、この映画の最大の見せ場は「剣岳初登頂」のシーンです。 しかし、本当に大事なメッセージは、 辛く、厳しく、報われる事は少ない仕事に、自らの意思ではなく巻き込まれてしまった一人一人がそれぞれの持ち場でゼロから一つ一つ仕上げてきた毎日毎日こそ大事なのです という事だと思います。 《このメッセージが霞むのなら『観客の皆さん』が待ち望む「最大の見せ場」はいらない》 時々、こんなメッセージが声高に叫ばれています。 「エベレストに初登頂したのは、ヒラリーであることは皆が知っているが、二番目に登頂した人の名前はほんどの人が知らない。だから、何でも一番にならないと意味がない。」 この主張と、鋭く対峙する木村大作氏の心からのメッセージです。 そこで、木村大作氏は編集会議という修羅場で啖呵を切った。 「ない袖は振れません!」 見事! |