私は料理関係はまるきりダメなのですが、ジャム一つ取ってみても香料だのリンゴの切り方だの有るんですね。
私の心はますます料理から遠ざかりそうです。
アルザス小旅行は、第一にこの地が亭主どんのお気に入りだからだったが、それも昨夏に評判のレストランを、さらに秋ぐちには同じ家族が経営しているこぎれいなホテルを見つけてからは、世話になっている同業者を招いたりして、この半年でもう5度めである。 で、昨年の帰国時に久しぶりに会った友人にそのアルザスの話をしたところ、一月末に彼女からメールがきた。 クリスチーヌ・フェルベールさんというお菓子とジャム造りの名人がNHKあさイチの「レジェンドキッチン」とやらに出演していて、フェルベールさんはアルザスの人だそうだけど、知ってる?との問い合わせだった。 寡聞にして伝説のパティシエについては無知だったが、彼女の店の所在地を書いてくれていたので、調べたら昨年10月初めに行ったケイゼルベール(ドイツ語でカイザースベルク)のすぐ北にある。 ケイゼルベールはワイン街道沿いの町ですっかり観光化されているが、アルバート・シュヴァイツァーの出身地なので、私がその生家を見たいと言ったのだった。ついでにそこで、女性画家が模様を描いていたイースター・エッグも買った。 フェルベールさんのことも調べると、ドイツ新聞「ディ・ヴェルト」の数年前の記事があって、それによると彼女のジャムはパリやニューヨークでも大好評、それら大都会に出店しないかという誘いを何度も受けているけれど、クリスチーヌさんはお父さんから受け継いだアルザスの店を弟さんたちと切り盛りしていくのが楽しいので、大都会に出て商売を拡張する気はないという。 そこには日本人の弟子が数人働いているとの報道もあり、既にその頃からクリスチーヌさんは日本で伝説化されていたらしい。 今回の旅の最初の晩、レストラン「黄金の鷲」で夫が女将さんに「家内が斯く斯くしかじかのアルザス女性のことを日本の友人から聞いて、それで明日はその店に行きたいというんです」と言うと、「あら、マダム・フェルベールはこの前の日曜日にここへお食事に見えましたよ」とのことだった。 予定通り、お天気が良くて桜も見ごろの翌土曜日その店を訪ねた。その付近の地理は大体知っているしナビもあるので、町に着くのに苦労はなく、着いてみると町というより村に近い所で、その一隅にフェルベールさんのお店「オー・リレース・ドゥ・トロワ・エピ」が目立たぬ佇まいを見せていた。 昼前の多分一番忙しい時間帯らしく、4人もの女性が売り子として忙しく立ち回っていて、クリスチーヌさんの姿が見えないのは、多分後ろの作業場でケーキやジャムを作っているのだろう。 店に入ってくる客は引きも切らず、こんな田舎に、と夫は驚いたようだが、私は評判を聞いていたので、さもありなんという感じ、ただ、そこにいた20分足らずの間に7、8人の日本人を見かけたのはさすがにびっくりだった。 犬を連れた60代と思しき日本人夫婦もいて、彼らは多分フランスかドイツ在住なのだろう。 せっかく来たのだからとジャムを6瓶買った。一瓶7ユーロ、900円前後である。友人の話では東京の伊勢丹で売っていて一瓶2000円くらいというから、倍以上の値段だ。 他にマカロンというお菓子も二箱買った。日本の友人の送りたいと思ったが、マカロンのクリームは1週間程度が限度らしいので、事務所の人達へのお土産にした。 私自身はマカロンやチョコレートはあまり好まない。あっさりしたワッフルやパンケーキのほうがいい。それにフェルベールさんのジャムをつけて食べよう。 もう一つ亭主どんが驚いていたのは、くだんの店がドイツ語でいう「エマおばさんの店」風で、要するに村の雑貨屋を兼ねた家族経営ということだった。一般の食品に加え、雑誌や布製の小物、瀬戸物等も扱っている。 住民はここで普段の生活に必要なものほとんどを買えるようになっており、ロンドンやパリの超高級ホテルからジャムの注文が相次いでも、クリスチーヌ・フェルベールさんはこの流儀を変える気は全くないらしい。 それだけで、私はすっかり彼女のことが気に入った。こういう人こそアルザスは誇りとすべきだ。 ただ・・・ ケチをつけるつもりは全くなく、彼女のジャムは確かにおいしいのだが。実は私は東京の友人から、テレビで見たという林檎ジャムのレシピ―を教わって、2月にその通りに作って成功しており、その私のジャムに比べて店で買ったのが段違いにおいしいということはなかった。 私が従ったレシピは間違いなくクリスチーヌ・フェルベールさんのもので、林檎はフランスのそれと同類のドイツ産。またレモンとオレンジの汁と皮を使う。 ポイントは多分香料で、八角、シナモンはわが家にめったに使わないのが十分にある。カルダモンだけスーパーで買ったが、これが意外とコツのようだ。 砂糖はレシピでは多すぎるように思い、7割に抑えたがそれで十分に甘かった。 もう一つのコツは、林檎を細かく正方形に切って、あくをとりながら丁寧に煮ることのようだ。 とにかくそうやって私が作ったジャムは、今までの手製ジャムの中では一番おいしかった。 試食させると夫もおいしいとは言ったが、他に比べて格段のおいしさとは言わなかったので、「違いの分からない奴め」と心中気を悪くして、2、3回出したあとは自分一人で食べてしまった。 ・写真1.フェルベールさんのお店。 ・写真2.この二人も日本人。 ・写真3.周囲の風景 |