昨日は、朝から世界陸上で興奮し感動した一日であった。
放送の中では、必ず競技を終わった日本人選手へのインタビューが行われるが、それを聞いていると各選手の人間性、性格が伝わってきて興味深い。
淡々と心情を語る人、悔しさを滲ませる人、落胆の表情がありありと見える人、嬉しそうに答える人・・・・・。そんな中で印象に残った人がいる。朝原宣治である。
朝原は、以前 「この大会を自分の競技生活の集大成にしたい」 という意味のことを語っていた。彼は今年35歳、短距離ランナーとしてはこれが最後の機会であることは誰の目にも明らかだ。そして1次予選でその言葉どおりの結果を出した。最後の20mほどは力を抜いたにもかかわらず10秒14、全力で最後まで走ったら10秒00台前半の記録が出ただろう。
そのあとのインタビューで最初に出した言葉は 「気持ちよく走れました」、 そして最後に言ったのが 「8時からの2次予選、応援してください」 だった。柔和な表情で淡々と語る言葉からは大人の風格が感じられた。その2次予選でも10秒16を出し準決勝進出を決めたが、そのあとのインタビューも爽やかな大人のインタビューであった。
今の陸上界ではプロ選手は少なくないしそれに近い人も多いが、彼は2人の子を持つ普通のサラリーマン選手である。大阪ガスが彼にどのような扱いをしているかは知らないけれど、彼の年齢になれば会社ではそれなりの責任ある立場にあるだろう。そうした中で10年以上も日本のトップ・スプリンターを続けることは並大抵のことではなかったと思う。そして、数年前に末續慎吾という新星が出てきてからは、マスコミは彼を常に二番手扱いするようになった。マスコミとはそういうものだと分かってはいても、これは朝原にとってはきっと面白くないことだったに違いない。
そうした諸々のことはおくびにも出さず、黙々と練習を続けてきた結果今の朝原がある。悲願のファイナリストになれるかどうかは分からない。しかし仮にそうならなかったとしても、彼はさばさばとしたいつもの表情でインタービューに答えることだろう。朝原はそういう男だと思う。僕はそんな朝原が好きだし、人間として尊敬できる人だと思っている。
8月26日の毎日新聞より