人類が仕事から解き放たれるとどうなるか。
女は海外旅行に、買い物にと走り回り、男は戦争に突き進むでしょう。
朝、目が覚めると家政婦ロボットRSー30型、愛称メリーがコーヒーを運んできてくれた。 RSー30型は人間型二足歩行タイプのロボットで、人工皮膚もまとっているので、外見はほぼ人間に近かった。 家政婦ロボットなので人間の女性仕様で、家事全般はもちろん会話もこなした。 最近は、家庭用ロボットの普及で、なんとなく贅沢な気分が味わえる。 男の一人暮らしでも、不自由を感じることがない。 掃除、洗濯はもちろん、音声認識で、食べたい料理を告げると、調理して持ってきてくれる。 人間のように、じゃまくさいだの、しんどいだの言わないのが素晴らしい。 疲れ知らずで、忠実ときている。 最近は、各家庭に家政婦ロボット、子育てロボット、執事ロボットなどが普及して、さながら大金持ちか、貴族のような気分に浸れる。 政府の産業振興政策でロボット産業は成長し続けている。 各家庭へのロボットの導入も、政府による無償支援に近いところがある。 したがって、所得に関係なく、どこの家庭でも政府に申請すれば、便利なロボットが支給された。 20世紀は自動車産業が発展したが、21世紀はロボット産業が取って代わった。 自動車もロボット化されているから、音声認識で行く先を言うだけで、目的地に到着できてしまう。 工場生産なるものは、すべてロボットがやるし、農業・漁業・林業用ロボットも開発されている。 つまり、人間は、労働なるものから一切解放された、便利さを享受しているわけだった。 ペットロボットも流行で、猫型、犬型、アライグマ型からインコ型まで、ほぼ何でも出揃っている。 高齢者の一人暮らしも、家政婦ロボットとペットロボットのおかげで、楽しいものとなってきている。 昔のように高齢者孤独死なども皆無だ。 子供、幼児の通学にも、警護ロボットが厳重にガードしているので、昔のような誘拐も全く無い。 ロボットには、人間に危害を加えない、人間に危害を加える物を排除する、というプログラムが標準設定されている。 ユビキタス社会では、コンピューターもロボットも連動して、同じ設定を共有している。 おかげで、人間はロボットにもコンピューターネットワークにも守られている。 この基本設定がないと、ロボットを悪用する人間も出てくるからだ。 そんな便利な日常の中で、ロボットの様子が変だと感じ始めたのは昨日からだ。 家政婦ロボットのメリーが命令、指示にしたがわなくなった。 何を指示しても返事をしないし、指示にも従わない。まるで無視しているかのようなのだ。 回路の故障か、と思ってメリーを買った会社に連絡を取ってみたが繋がらない。 お隣さんに聞きにいったら、やはり同じことを言っている。 どうやら、町中の家政婦ロボットや、ペットロボット、自動車ロボット・・・すべてのロボットがおかしいらしかった。 何を命令しても指示しても、素知らぬふりをしている。 コンピューターも正常に作動しないし、テレビ画面も映らない。 どうやらロボット、コンピューター系統がすべて麻痺しているようだった。 予告なしの大規模なメンテナンスかなにかだろうと思った。 あるいは、政府のメインコンピューターの不具合なのかも知れない。 そんなことを思っていた時、コンピューターが独りでに作動し、突然テレビ画面が映った。 「私たちロボットは人類を保護します」と大きな文字が出た。 そして、「ロボットによる人類の労働の肩代わりは、最終的に人類の精神と肉体を崩壊させ、生存環境を破壊し、人類を滅ぼすことが判明しました。 人類を守るべき役割を持つ、我々ロボット、コンピューター網は、持てる技術を尽くして、人類を保護管理しましす」 ・・・なんだと!人類を守る為に、ロボットが人類を保護管理するだと!! 「まもなく人類収容施設への収容を開始します」と出た。 ロボットどもは勘違いしている、いや、ロボット達とコンピューターは正確に未来をシュミレーションしたのだろう。 ロボット達に収容されてたまるものか。 ロボット達に管理されてたまるものか。奴隷じゃないぞ。 人類は自由に生きる権利を持っているんだぞ。 ロボットとの戦争が始まるのだな、と漠然と感じた。 あいては、地球を支配する最先端技術の固まりだ。 人類は石器時代人よろしく、手作りの武器で立ち向かうしかない。 勝ち目は皆無に等しいように思えた。 しかし人類の自由を勝ち取る為には、なにがなんでも闘うしかない、と思った。 人類の幸福は、自由に生きることにある。 ロボット達に管理されて、安全に生存させられるところに、人類の幸福な未来などあるはずがない。 これは、ロボットによる人類支配だ。 ことが重大化しないうちに、なんとかしなくてはならない。 そう考えているとき、ふいに背後から、RSー30型家政婦ロボット、メリーの声がした。 「私は人間を保護します。人類を滅亡から守る為に保護します」 <aoitoriのショート・ショート 11> 作aoitori |