３０キロを過ぎて、学園東大通りに帰ってきました。
この辺りになると、一人、また一人とサブスリーペースから
脱落するランナーや、脚が攣ったのでしょうか、
立ち止まっているランナーが出てきます。

私も脚のバネがかなり失われてきているのが分かりますが、
これまで脚が攣ったことはありませんし、
まだキロ４分１０秒は切って走れているので、
「大丈夫、大丈夫」と声に出して自分に言い聞かせます。
だんだん独り言が多くなってきました（笑）。

ランナーの数も段々減ってきて、
孤独な闘い、自分との闘いになってきます。
疲労も出てきて、「まだ１０キロ以上あるのか」という
弱気が顔を覗かせつつあったとき、沿道から、
クラブのＴさんが声をかけてくれました。

大田原を目標に頑張ってきたＴさん。
残念ながら故障でＤＮＳでしたが、
わざわざつくばまで応援に来てくれたのです。
本当にありがたいことです。

「頑張ります」と応えると、
「頑張らないで、自分の走り！」と言われました。

この言葉を聞いて、「そうだそうだ。これまでやってきた
ことを思い出して、いいフォームで走ろう」と思いました。

私の場合、普段の練習でも、コーチに
「疲れてくると反り腰になる」と言われるのですが、
確かに、どうも首が痛いと思ったら、
顎が上がり、腰が反り気味になっていたようです。

体幹をしっかりさせ、骨盤が後傾しないように注意して、
肩甲骨からしっかり腕を振ります。
ポケットからカフェイン入りのショッツ・コーヒービーン味を
取り出し、補給します。

フォームに意識を集中したことで、
３０キロを過ぎてからの１キロごとのラップは、
４分９秒、４分４秒、４分９秒と、
疲労している中でも４分ヒトケタ秒を維持しています。

しかし、その後は４分１５秒、４分１３秒と、
さすがにペースが落ちてきました。
それでも、３５キロまでの５キロは２０分５４秒。
目標にしていた２２分はもちろん、２１分も切っています。

３５キロ過ぎには、つくばマラソンコースで最大の登り坂、
口の堀陸橋登り坂があります。
一昨年は「ここでこの登り坂かよー。」と
泣きそうになった坂ですが、今年は富士登山競走に向けて
ひたすら登りの力を鍛えてきましたので、何でもありません。
しっかり腕を振って登り切ります。

ここまでくると、残りはあと７キロ。
確かに辛いですが、あとたったの３０分。
憧れのサブスリー達成に向けた栄光の３０分です。

「走りきれる。サブスリー行ける。」という気持ちが
だんだん強くなってきて、ハイテンションになってきました。

「逃がさない！絶対に逃がさない！」と繰り返し声に出し、
頭の中をこれまで練習してきた日々が走馬灯のようにめぐり、
ちょっと涙ぐんでしまいました。

「本番は心で走れ」と言われていますが、
テンションがあがったせいか、失速するどころか、
ペースはむしろあがっています。
気持ちが身体をひっぱっている感じです。
このまま最後までいけるぞ、という気持ちになってきました。

つくば大学構内に帰ってきて、第２折り返しのあたりで、
クラブのＳＪヘッドコーチとＴさん達の姿が見えました。
折り返してくると、ＳＪコーチから、
「タイム出るから！（自分の力を）出しきって！」
と声をかけられました。

そして４０キロを通過。
目標の２時間５０分を大幅に上回る２時間４６分５６秒です。
この時点でサブスリーを確信しましたが、
もう記録のことは考えずに、ＳＪコーチに言われた通り、
最後の力を振り絞って、悔いのないように
ゴールまで駆け抜けることだけを考えて走ります。

４１キロ過ぎの最後の難所、かえで通りの登り坂は
さすがにきつかったですが、もうゴールの陸上競技場は
すぐそこです。

陸上競技場に帰ってくると、すぐにクラブの陣地が見えます。
「帰ってきたぞ！」と合図を送り、「あ“−ッ」と吠えて、
トラックを全力で走ります。

ゴールのアーチが近づいてきます。
最後の直線でサングラスを外し、右手を高々と掲げ、
富士登山競走に次ぐグランドスラム２冠目を示す
２本指を突き出してゴール！

２時間５６分１３秒。会心のレースでサブスリー達成です。
力はすべて出し切りましたが、一昨年と違って
意識はしっかりしています。
走ってきたコースを振り返って一礼。
２、３秒、目を閉じて感慨に浸ります。
これまでコツコツと練習してきた全てが報われた瞬間でした。