ＭＭＳストーリー・第４話　「縁からつながりのネットワークへ」

　１９９６年１２月６日、兵庫ニューメディア推進協議会での講演の当日は、冬空特有の灰色の低い雲が空を覆う、ちょっと肌寒い金曜日の午後でした。午前中に神戸・ハーバーランドにあるラジオ関西本社に入り、担当プロデューサーの今林清志氏と、いつもの１４階の社員食堂（レストラン・フォーティーン）で早めの昼食を済ませました。
今林さん担当の番組は、毎週月曜日から木曜日までの昼下がり、午後１時から午後３時４５分までの間、軽快トークや音楽で過ごしていただく「ＡＭ神戸まんまるワイド・小林睦郎の晴ればれ神戸丸」という帯ワイドで、私は毎週火曜日の「おじさんパソコン講座」にレギュラーチューターとして出演しています。

　この番組に出るようになったのも、ほんのちょっとしたきっかけからでした。ＡＭ神戸に関わりのあるメンバーの仕掛けで、青年会議所の理事として「インターネットの楽しさ」を、「エコのダブルジャンクボックス」という深夜番組でお話しする機会を頂きました。録音は昼間、震災で壊滅的ダメージを受けた須磨の旧スタジオでやったのですが、その番組の担当ではないスポーツ担当のプロデューサーが、一緒に打ち合わせから録音まで立ち会ってくれたのでした。

個人的にパソコンやインターネットに興味があるという彼が今林さんで、ごつい顔には似合わず、いろいろと繊細に少し固くなりがちの私の気分を、会話で和ませてくれました。後に小林睦郎さんの番組でご一緒するようになってから判ったのですが、その大きな身体からは想像もできないほど詩的な言葉が、泉から清水が湧き出るかのようにもれてくるがごとき文学的な表現力と、適切な状況判断、そして人間的な温かみを兼ね備えながらも、時々ドジってしまうようなところもあるような、本当に素晴らしい人物なのです。

ちょうどその頃、今林さんはスポーツを離れて、和歌山放送のチーフアナである小林睦郎さんを神戸に招いて、初めての昼ワイドを新設するというプロジェクトを任されることになっており、その番組の中でぜひとも、コンピュータをもっと身近に感じられるようなコーナーを作りたいというおもいを実現するための仲間を探しているところだったようです。そうその毒牙（？）にまんまとはまったのが、私こたつねこであったわけですね..(^^)

　講演のお話をすると、ぜひとも聴いてみたいということだったので、待ち合わせの上昼食を取って、ハーバーランドから元町の兵庫県庁近くまで、タクシーに乗せてもらって行くことになりました。
中山手通にある会場の神戸教育会館についてのは、開始３０分ほど前の午後１時過ぎでした。会場は約８０名くらいの教室形式の座席に、最前列で向き合うように講師席が作ってありました。そこでごそごそプロジェクタの準備をしていたのは、ＮＴＴ姫路で打ち合わせをした政井さん。そしてもう一人、ご自分のパソコンを設定している私と同年輩の教師風の男性。彼が震災時に兵庫県と一緒に、現場からの情報発信の重要性を説いて、避難所や支援拠点にパソコンを配り、教育をしながら、いろいろなネットワークを接続していった、ＣＳＫの作山喜秋氏だったのでした。始めてみる作山さんは、随分と想像とは違い、とても身近に感じられるほど近しい第一印象がありました。

まずは名刺交換をして、無名な私の方からここに至るいきさつをご説明し、震災直後からの情報発信の現状などの話を交わしながら準備をしているとそこに、色白に黒目がね、バリトンの美声で説くように語る３０代半ばの青年が現れました。政井さんや作山さんと和気藹々と語る彼が、四国から洲本に入り、慶応の学生たちの協力を得ながら、淡路島中北部で情報ボランティアを組織して復興に尽力した、徳島大学総合科学部助教授の干川（ほしかわ）剛史氏でした。

「おいおい、有名な人ばかりや」と、しばしびびり気味のこたつでありましたが、私達３人が当日の講師陣ということで、経験でも理論でもかないそうにない私は、持ち前の話術だけで特徴を出すべく覚悟を決めたのでありました..(^^)

　作山さん、干川さんを始めとする情報ボランティアやそれを組織し動かすことに情熱を傾けた方々の足跡は、『つながりの大研究－電子ネットワーカーたちの阪神淡路大震災－／金子郁容著／ＮＨＫ出版』などで読むことが出来ます。